「もともとジョンソン・エンド・ジョンソングループでは,各国に権限を委譲する分権経営の傾向が強かったのですが,最近では,グローバルで効率化が図れるエリアではグローバル化を進めていこうという動きが顕著です」と須佐秀雄氏は,同グループでの変化を指摘する。業務を集約化して人員を減らし,コスト削減を図ろうという動きが急速に進んでいるという。
「ファイナンスに限らず,シェアードサービスは加速しています。今回の運用のアウトソーシングもその流れの一環です」と須佐氏は,中国の大連に運用をオフショアした背景を語る。「インドという選択肢もありましたが,大連には日本語が通用するというメリットがありましたし,スキルやモチベーションの高さも評価しました」と語る。
同社ではグローバルレベルでITの標準化を進めてインスタンスを集約すると同時に,業務を委託するベンダーも絞り込もうとしている。グローバル単位で1つのベンダーに業務を委託するのが基本だ。「今回アウトソーシングを委託した大手コンピュータメーカーとは,昨年グローバルレベルで契約を締結していました。グローバルレベルでレートを決めているので,コストメリットも大きくなります」と須佐氏はそのメリットを強調する。
当然,やりにくさもある。須佐氏によれば「コミュニケーションが英語になることと,意思決定に本社というワンクッションが入ることですね。ただ,一度決めてしまえばあとはスムーズに進められます」という。同グループでは"Speed To Value"というITビジョンを掲げ,EA(Enterprise Architecture)を導入している。枠組みをしっかり作れば,そのあとの展開で揺らぎが生じることはない。プロジェクトもいったん決まればあとはスムーズに進めることができる。
今回,大連に保守・運用をアウトソーシングしたのは,同社のファイナンス業務を処理するSAPシステムとアリバの購買システムとの連携部分だ。2008年1月から移行プロジェクトがスタートし,4月に基盤部分,7月にアプリケーション部分の運用を移行した。
運用業務を移行するのにあたって,メーカーの日本法人と大連のチームから合わせて10名ほどのメンバーが集められた。日本法人のメンバーが移行プロジェクトのマネジメントを担当し,大連のスタッフは数週間常駐して運用業務を社内のメンバーから引き継いだ。「大連のメンバーは思った通り,スキルもモチベーションも高く,移行は非常にスムーズに進められました」と須佐氏はプロジェクトにあたったフタッフの質の高さを評価する。
この移行にあたっては,もうひとつ大きな成功要因があった。それは,同社がすでにITILを使って運用プロセスを定義していたことだ。同社の掲げる"ビジョン経営"のひとつにプロセスの標準化が挙げられており,運用部門としてITILを使った運用改善に取り組んでいたのだ。「運用業務プロセスは3年かけて作り,移行前にすでに軌道に乗っていました。最初にプロセスができていたので移行も楽にできたのです」と須佐氏は,ITILが移行プロジェクトに大きく貢献したことを示唆する。
オフショアのアウトソーシングを活用するメリットについて須佐氏は,「1つのベンダーに任せることでいろいろな会社の人たちをマネジメントする必要がなくなります。なおかつ,コストが削減できます。そして3つめのメリットは,社員をコアな業務にシフトさせられることです。IT部門としての戦略的な取り組みを強化することができます」と3つの点を挙げる。マネジメントの負担を軽減し,コストを削減しながら社員をより高度な業務にシフトできるメリットは大きい。
■ジョンソン・エンド・ジョンソングループのIT戦略における
ヤンセン ファーマの位置づけと今回のアウトソーシングの対象範囲
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今後の展開について須佐氏は,「2006年から"グローバルでOne IT"というビジョンを進めています。これに沿って運用や開発の体制を見直していきます。運用の次は当然,開発です。SAPの扱いについても,アジアパシフィックで1つのインスタンスにするのか,ヤンセン ファーマとして1つにするのか検討中です。現在,開発を委託するベンダーを選定している最中で,年内には1社に決めたいと考えています」と語る。
さらに同社ではSAP以外のシステムも存在する。R&Dのための治験システムや新薬の申請システム,自社開発したCRM(Customer Relationship Management)などだ。SAP以外のシステムのほうが断然多いと須佐氏。「これらの非SAPシステムの運用についても,すべてオフショアでアウトソーシングしようと動いています。こちらも委託先を選定している最中です」。これらの開発についても絞り込んでいこうという動きがある。
世界57カ国で事業を展開し,従業員数12万名弱,売上高6兆円超を誇る大規模な企業グループだけに,IT戦略も段階的に進めることになる。現在,ITインフラやシェアードサービスについては,グループ本社のITS部門が提供し,その上で3つのセクターが事業展開にあわせたアプリケーションを構築している。今後はこうしたアプリケーションの開発・運用が議論の焦点となる。
「グループとしてGlobal Center of Excellence(GcoE)というグローバル共通の組織を設け,共通化できる業務の集約化を図っています。システムの開発・運用機能もそのひとつです」と須佐氏は,グローバルレベルでの集約化に向けた動きを強調する。2012年を目処に,100近いITシステムのインスタンスを集約するという計画を進める同グループにとって,開発・運用のコストを削減しながらIT戦略を強化できるアウトソーシングは大きな意味を持っているのである。
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ヤンセン ファーマ株式会社
世界最大級のトータル・ヘルスケア・カンパニー、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)グループの製薬会社。46年間に84品目もの新薬を開発したヤンセン・ファーマスーティカ社の創業者、ポール・ヤンセン博士の妥協なき開発精神を継承し、J&Jグループの優れた新薬の導入はもちろん、医療現場への適切かつ最新の医療情報の提供、さらには、患者さんのQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上を目指した支援活動などを行っている。 売上高841億円、従業員数1603名(2007年12月期)。
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