◎並行在来線支援 政治決断で新たな仕組みを
北陸新幹線開業に伴う並行在来線の経営分離問題で、谷本、石井両知事が石川、富山に
長野、新潟を加えた四県と国、JRによる協議の場を設置することで合意した。沿線県の連携強化は当然としても、各県の需要予測や収支の試算をみる限り、現行の仕組みのままで在来線経営を軌道に乗せるのは極めて困難と言わざるを得ない。国土交通省は固定資産税など税制優遇措置の延長、貨物調整金の拡充策を新たに示したが、安定した経営展望を描くにはまだまだ不十分である。
並行在来線については、新幹線開業時にJRから分離することを沿線自治体、JRが同
意するとの一九九〇年の政府・与党の申し合わせがある。だが、当時とは自治体の財政状況や沿線の人口動向などが大きく変化し、地方が鉄道経営を担う環境は悪化している。新幹線はJR、開業に伴い収益性が悪くなる在来線は地方にお任せという役割分担に無理があるのは、第三セクターの先行四社の経営状況をみれば明らかである。
北陸など沿線自治体はJR資産の無償譲渡、あるいは簿価でなく収益性に基づく譲渡価
格の設定、線路使用量の増額や初期投資に対する助成措置などを求めている。各県とJRの個別協議に委ねるだけでなく、政府・与党は政治決断で現実に即した新たな仕組みや恒久的な支援策を示すときだろう。
並行在来線は地域の足であり、新幹線利用者の二次交通となる。貨物輸送の動脈として
も重要な役割を担い、将来にわたって存続させる必要がある。だが、経営分離の先行県では新幹線に観光客やビジネス客が流れ、苦境に立たされている。運賃値上げで収益を上げようにも客離れが懸念され、収支改善は進んでいない。
九州新幹線長崎ルートでは開業後二十年間はJRが並行在来線を運行するとの合意が昨
年十二月になされた。沿線自治体の一部が経営分離を容認しないための苦肉の策とはいえ、在来線をいきなり地方に任せず、自治体が財政支援しながら当面は経営ノウハウをもつJRが担うという新たな選択肢を示した点で大きな意味を持つ。JRには新幹線が開業後も在来線への積極的な関与を求めたい。
◎道路中期計画見直し 初めて減った交通量予測
国土交通省は二〇三〇年の交通量について少子高齢化の加速などにより〇五年に比べて
2・6%減るとの予測と、これに基づき一二年度までの道路整備の方針を示す中期計画の骨子を公表した。交通量が減るとの予測は今回が初めてである。
これまでの予測では二〇年まで交通量が増加するとしたため、その根拠がただされた。
意図的に古い統計を用いた疑いや、費用対効果の分析で数字の水増しがあるなどと指摘され、無駄遣いも追及されたのである。
今年五月、福田前政権が道路特定財源の一般財源化を閣議決定したのだが、それまでは
道路特定財源が「聖域」のように特別扱いにされてきて、「道路整備以外にも使える」との解釈にもブレーキが掛からず、一例を挙げると、〇六年度だけでもタクシー代が約十五億円も支出されていたのである。
こうした無駄遣いは道路関係の公益法人にも及び、マッサージチェア、魚群探知機、ゴ
ルフボール、コーヒーメーカー、職員旅行などにも使われていたことが発覚したことから福田康夫首相が一般財源化に踏み切らざるを得なくなり、それに伴い道路中期計画の見直しも進められ、今回の公表になったのだ。公益法人は国交省OBの貴重な天下り先でもあるのは言わずもがなだろう。
道路中期計画は元来、五年単位で策定されてきたのだが、〇七年末に道路特定財源の暫
定税率の十年延長に合わせて、〇八年度から十年間の計画がつくられた。福田首相はそれを五年に引き戻し、見直しを指示したのだった。
既得権益であったガソリン税等の暫定税率の維持を前提に、年間五兆円強の道路特定財
源を十年間にわたって使おうとしていたわけであり、様変わりとも言える改善と言えなくもない。
骨子には無駄の排除や費用対効果の厳格な分析のほか、中期計画をまとめた後に地方版
の詳細な計画の策定、投資の重点化があり、必要な道路は適切につくっていかねばならない。要は道路利権にぶら下がる実態にメスを入れて無駄をなくすことだ。