減り続ける赤ちゃんの出生体重が、戦前の水準さえ下回ったことが26日までに分かった。先進国で減っているのは日本だけ。要因は女性の痩(や)せ志向で、喫煙やストレスなども絡む。胎児期に発育が抑制されると、生活習慣病の危険が増すという。専門医は女性の健康確保や胎児からのメタボ対策など、個人に加え社会全体の取り組みを訴える。(八並朋昌)
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≪20年で200グラムも減少≫
「驚くべきことだ。昭和55年から平成12年の20年で平均出生体重は約200グラムも減った。60年前の戦前の平均さえ下回っている」
昭和大学医学部小児科教授・副院長で日本小児科学会新生児委員会委員長の板橋(いたはし)家頭夫(かずお)さん(55)は語気を強める。
厚生労働省は昭和35年から10年ごとに行う乳幼児身体発育調査で、最新の平成12年調査結果を翌秋発表した際、平均出生体重の減少について、「前回(2年)と比べやや減少」などと危機感を示さなかった。この時の平均は男児3040グラム、女児2960グラム。最高だった昭和55年の3230グラム、3160グラムから20年で約200グラムも減り、昭和35年平均も下回っていた。
しかし、最近になって板橋さんが戦前の記録を調べ直したところ、昭和15〜17年平均(3050グラム、2970グラム)さえ下回っていることが分かったのだ。
「成人の体格が大きくなっている先進国では出生体重も増加しており、減っているのは日本だけ。海外の研究者も驚きをもって注目している」と板橋さん。
日本の出産適齢女性の平均身長も昭和22年の20歳で150・4センチ、26〜30歳で149・4センチから、平成17年は20歳158・3センチ、26〜29歳158・5センチと8〜9センチも大きくなっている。
にもかかわらず新生児が小柄化した背景には、過度の痩せ志向がある。厚労省の国民栄養調査で同世代女性のBMI(肥満指数)平均は「ふつう」(18・5以上25・0未満)の範囲ながら、昭和22年の22・4と22・0が平成17年に21・1、20・4まで下がっている。
≪生活習慣病拡大も≫
喫煙やストレス、民族的な遺伝なども絡む。「痩せ過ぎなどで子宮機能が悪化すると胎児に十分栄養が供給されない。たばこを吸えば胎児は酸欠になり、ニコチンにさらされる」。実際に厚労省調査では、母親本人の喫煙だけでなく、父親らによる受動喫煙でも、本数が増えるほど出生体重が減っている。
新生児の小柄化を象徴するのが低出生体重児(2500グラム未満)の急増だ。厚労省統計では、全出生数に占める割合が平成5年の6・8%から16年には9・4%に増えている。
「胎内環境が悪いと、胎児はその環境に合わせて発育を抑制するプログラミングが行われる。出生後に発育が追い着いても、急に栄養を取るようになれば、内臓肥満から始まって糖尿病や腎不全、動脈硬化や脳卒中など生活習慣病にかかりやすくなる。2500グラム以上でも小柄な新生児にはこの傾向がある」
さらに、「母体からのストレスホルモンにさらされると、出生後にちょっとしたストレスで肥満になることや、キレるなど行動異常につながるという研究結果もある」と指摘する。
≪国挙げた対策必要≫
こうした研究の進展などで、厚労省は18年2月に「妊産婦のための食生活指針」を策定。「必要な食事内容や望ましい体重増加量を示している。『日本人の食事摂取基準』の次期改定でも対応する」と母子保健課主査の三間紘子さん(31)は説明する。
板橋さんは子供を望む女性に対し「早い時期に『スリム=美人』という偏向した価値観から抜け出し、喫煙や酒が絡む不摂生な生活を改める」、夫婦には「妻は心身ともにストレスをためない。夫は『産むのはお前(妻)だから』ではダメ。妻を支え、2人で出産する感覚を」と助言する。
新生児の小柄化は、日本人が健康に生き残れるかどうかの問題にかかわる、少子化以上に深刻な問題。板橋さんは「出生体重減少の大規模調査・検証、出産適齢女性の健康確保、胎児からのメタボ対策など国を挙げた取り組みが必要だ」と訴える。
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