【ロンドン=木村正人】アフリカ・ソマリア周辺海域で横行する海賊を取り締まるため、英政府は英軍艦が公海上でも警察権を行使できるよう海運法を改正する手続きを進めていることが、英海事筋の話で26日分かった。海賊を逮捕して自国などの法廷で裁きにかけるのが狙い。欧州ではフランスを除き国内法が未整備で、海賊を野放しにする一因になっていた。欧州連合(EU)も英国方式を参考に海賊摘発策の検討を始めた。
海運法改正案は12月3日の女王演説で発表される。
国連の国際海事機関(IMO)によると、1984年以降、ソマリア周辺海域で約440件の海賊事件が発生、35隻以上が拿捕(だほ)され、船員ら600人以上が捕らえられた。現在も14隻、25カ国の約280人がソマリアに抑留されている。
北大西洋条約機構(NATO)やEU加盟国は海賊対策として、アラビア半島とソマリア間のアデン湾に軍艦4〜7隻を派遣、船舶の安全航行を確保する500マイル(926キロ)の“海廊”を設けている。
国連海洋法条約は締約国に海賊の取り締まりを認めているが、警察権を持たない軍艦が公海上で海賊を逮捕しても、どの国で裁判を受けさせるのか国内法が未整備の国が多かった。
軍艦に警察権を認めているフランスを除くと、海賊船を取り締まっても、武器を海に捨てさせた後、海賊をソマリア海岸まで送り届けて解放するケースが目立っていた。
英政府は軍艦が公海上で海賊を逮捕して自国などで裁判にかけられるよう海運法を改正する。英国人や英国の船舶が被害にあった場合は英国の法廷で、それ以外では、ソマリア暫定政府があるケニアと犯罪人引き渡し条約を結び、海賊を引き渡す方向で調整を進めている。
ソマリア周辺海域でテロ対策として不審船の臨検を行ってきた米側も、身柄拘束した海賊の取り扱いについては国際的な法的枠組みを各国と検討している。
国際商業会議所で海賊対策を担う国際海事局(IMB)のハウレット局次長は産経新聞に対し、「軍艦は攻撃を受けた場合に反撃できるが、海賊を積極的に取り締まる法の後ろ盾がなかった。海賊の活動範囲を広げている母船を封じ込めるには、各国の海軍が海賊を摘発できるよう国内法の整備を進めることが必要だ」と話している。
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