来春卒業予定の大学生や高校生の採用内定を取り消す企業が相次いでいる。人生の門出を傷つけるだけでなく、正当な理由なしには許されない行為だ。悪質な場合は企業名を公表すべきである。
今年前半まで売り手市場だった学生たちは最近の就職情勢の急変に困惑していることだろう。金融危機をきっかけに企業の二〇〇九年度以降の採用計画は一変した。なかには内定を取り消すところも出てきた。
厚生労働省が各地のハローワーク(公共職業安定所)を通じて調べたところ、すでに内定取り消しの報告が四社六十三人もあった。全国調査を踏まえて学生への相談体制と、企業に対する指導を強化する方針だ。また連合も学生たちの相談窓口を来月、開設する。
取り消しの理由は倒産や業績不振などさまざまという。社員の雇用も維持できない倒産の場合はやむを得ないケースとなろうが、景気後退に伴う業績悪化というだけでは正当な理由とは言えまい。
法的には内定取り消しは労働基準法に基づく労働契約の解約、つまり一種の解雇と見なされる。合理的な理由がなければ解約権の乱用とされ無効である。一九七九年七月、大日本印刷事件で最高裁が示した判例が有名だ。
同社は内定後に誓約書を提出した学生に対して「陰気」な印象を理由に内定を取り消した。最高裁は本人の印象は面接試験でわかっていたとし、取り消しをする合理的理由にはならないと指摘した。採用の内定は、労働契約が成立したことと同じ重みがある。
来春卒業予定の大学生は約六十六万四千人。高校生は百十万人に達する。就職は人生の重要な節目であり、採用内定はその第一歩と言える。フリーター百八十一万人や再出発を目指す転職者にとっても内定通知はうれしいものだ。
今春卒業の就職率は大学生が96・9%、高校生が98・4%といずれも最高水準だった。来春以降は“氷河期”再来となろうが困難にくじけず頑張ってもらいたい。
現在、雇用情勢は急速に悪化している。自動車や電機業界などで期間工や派遣社員、パート労働者の解雇が続いている。失業率の上昇と有効求人倍率の低下は避けられない。
政府は追加経済対策で年長フリーター対策や雇用保険料引き下げなどを取り上げたが本年度第二次補正予算案の提出は来年一月だ。政治空白を解消して一日も早く雇用対策に取り組んでもらいたい。
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