米政府と米連邦準備理事会(FRB)が、個人消費の下支えを目的に新たな金融対策を打ち出した。金融機関が個人向け融資を増やせるように、最大8000億ドル(約77兆円)に上る巨額の資金を供給する。
金融危機で資金不足に陥っていた家計を救う効果が期待できそうだ。半面、FRBの資産膨張と資産内容の劣化を招く恐れもあり、ドルの信認低下の副作用が気になる。
金融対策の仕組みはこうだ。米国の金融機関は、住宅や自動車ローンなど、個人向けの貸出債権を裏付けとする証券化商品を大量に抱え込んでいる。これらの資産担保証券は買い手がいないため、市場で売却できない状態に陥っていた。
FRBは、住宅ローン担保証券を中心に買い上げる。金融機関は「悩みの種」を吐き出すことで、資金繰りが改善するだろう。金融機関が再び個人向けの貸し出しに動けば、個人消費のテコ入れにつながる。
FRBへの証券の売却で損失額が確定すれば、金融機関の資産内容の透明性が高まる効果もあるはずだ。どれだけ大きな損が潜んでいるか分からず、疑心暗鬼になっていた金融市場の不信感が、少しでも解消されることを期待したい。
焦点は、FRBによる資産担保証券の買い入れ価格だ。証券を買うということは、その証券に「値段」がつくことを意味する。価格決定という最も大事な機能が停止していた資産担保証券の市場が息を吹き返す足がかりとなる可能性がある。
そのためには、買い取り対象とする証券の種類や、発行期日、価格の算定基準などを明確に示す必要がある。大胆な対策を打ち出す以上、金融市場を覆っている霧を一気に吹き飛ばさなければならない。米国の株式市場の反応が今ひとつなのは、対策の細部がはっきりしないからだ。
8000億ドルもの支援規模は、9月のリーマン・ブラザーズの破綻後に、金融機関の損失が当初の予想以上に膨らんでいる深刻な現実を語っている。あらゆる資産を引き受けるFRBは、資産劣化が避けられない。
ドルの信認を揺るがす危険を承知で巨大対策を打ち出すほど、米国は追い込まれている。オバマ次期政権に託された経済再生の課題は重い。