男性の高齢者で、所得の低い人の死亡率は、所得の高い人の3倍――。65歳以上の男性約1万2千人を4年間追跡した結果、所得により死亡率に差があることが日本福祉大学などの研究グループの調査で浮き彫りになった。
同大の平井寛主任研究員、近藤克則教授(社会疫学)らが、名古屋市から60キロ圏内の5自治体に住む65歳以上の男女を対象に実施した。
匿名化した介護保険データを自治体から提供してもらい解析。03年10月時点で要介護状態ではない男女2万8千人が、07年10月までに死亡した率を所得別に調べた。所得は、介護保険料算定の基礎となる階層に基づき、「老齢福祉年金(年約40万円)や生活保護受給レベル」の第1段階から「課税対象の合計所得200万円以上(年金受給なら年320万円以上)」の第5段階まで、5分類した。
その結果、最も所得が低い第1段階の男性の死亡率は34.6%。第5段階の11.2%の約3倍、第2段階の15.3%の倍以上高かった。
一方、女性の死亡率は所得階層による有意な差は出なかった。女性の本人所得は、必ずしも世帯全体の所得を反映していないことが主な要因とみられる。
世界保健機関(WHO)の専門委員会に携わった黒川清・政策研究大学院大学教授は「所得の低い人が受診を抑制したためではないか。日本は国民皆保険で長寿が達成されていると国際的に評価されてきたが、近年の所得保障崩壊や医療費の自己負担増などで揺らいでいる」と指摘する。近藤教授は「医療保障だけでなく、労働・教育政策など総合対策をとるべきだ」と話す。(友野賀世)