弓立社
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『出版を続けるということ』弓立社代表 宮下和夫
02. 堀の上を歩くひと
 

『徳間書店の30年』 徳間書店1984年僕は、徳間書店育ちだ。そのことが自分を規定していると思っている。その前、学研にちょっとと主婦と生活社(週刊女性)に一年いた。その後、講談社の外校(フリーランスの校正者)で13年食った。
しかし、たかだか6年だったが徳間書店にいたことを幸運だと思っている。6年といっても、面白かったのは半分で、後の半分はふてくされていた。しかし、3年も面白いことができれば、御の字だろう。いろんな出版社の栄枯盛衰とそこでの人間ドラマを遠望して、僕は、早い時期にそう思い決めた。
それが、弓立社を始める原動力でもあった。徳間のかつての同僚や先輩は、ひどい会社だった、とよくいう。だが、僕はそうは思わない。

なぜか。まず決定的なのは、変な理念にとらわれていないこと。右でも左でも、エロでも純文学でも出せた(時期がある。いまは、よく知らない。)
編集者の資質だけではこうはいかない。社長の資質が然らしめるところだろう。戦後、昭和21年の読売大争議で指導部だったから、レフト・ウイングが効いている。人脈で云えば、社会党・共産党に近いところまである。ソ連や中国との合作映画を大映で作れたのもそのラインだろう。

また、中野正剛の息・達彦の作った真善美社の専務もつとめている。アプレゲール叢書や埴谷雄高の『死霊』を出したあの栄光ある出版社だ。印刷所を作ると、自民党から共産党・社会党までの機関誌を扱った。僕が入ったときもやっていた。
中野正剛の親友・緒方竹虎を始めとし、田中角栄や中曾根康弘、石原慎太郎にいたる党人政治家との交流もあった。『河野一郎自伝』などを、僕が入ったころ作っていた。
こんな人が作っていたのが週刊「アサヒ芸能」なんだから一寸笑えるが、なんでもありの雰囲気があった。
いやなことをたっぷり見てきた友人たちには裏切り者扱いされるだろうが、今まで僕が見聞したなかで、見たことのないタイプの幅広い創業型出版人だ。いまの出版界にはひとりもいなくなってしまった。
誰が云ったのか、田中角栄と同じく「塀の上を歩く人」とも囁かれていた。

『徳間書店の30年』を見ると、「崖っぷち人生の男」と書かれているが、むしろ、刑務所の中と外を隔てる「塀」の上を歩く人というほうが、野次馬からいわせれば、名誉と思える。
実際、刎頸の友といわれた地産の竹井博友は入ってしまった。
入社した翌年の昭和41(1966)年2月4日、全日空ボーイング727型機が東京湾に墜落し、出版業界の社長・編集長・営業部長などトップ数十人が一気に死亡するという悲劇が起こった。
僕などが遠くから尊敬していた春秋社の名編集長・岩淵五郎さんが亡くなったのもこの時だ。
それが思いもかけないきっかけとなって、僕たち23,4歳の文芸編集部の連中に新しいことが出来るようになった。
吉本隆明さんの『自立の思想的拠点』を出版できたのだ。昭和41年10月のことだ。それまでに全くない系統の本だった。


(『彷書月刊』2000年8月号)

 
目次
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