ロッキード社の「ロッキード先進開発部(Lockheed Martin Advanced Development Program)の愛称。またはそれに倣って構成された秘密開発部門のこと。
ロッキード社(1995年以降はロッキード・マーチン社)のスカンク・ワークスは革新的な航空機の開発を行ってきましたが、これを最初に組織したのは、のちにロッキード社副社長となるケリー・ジョンソンでした。少人数、小規模で本社機能とは独立し、上層部の指示などをほとんど受けずに自由な研究開発を進める、半ば非公認の専門家集団でした。
1943年のこと、180日という開発期間を与えられていた戦闘機「P-80シューティングスター(朝鮮戦争で戦闘爆撃機として使用された)」を、たったの143日で開発したそうです。そののちも、高高度偵察機U-2やマッハ3の高速機SR-71、有名なステルス戦闘機など、画期的な機体を次々と生み出しました。
コンピュータ分野などの他分野でも、同様のチームを組織して大きな成果をあげた例があります。
ただし、必ず結果を出すことを求められる通常の事業プロジェクトと異なり、失敗するリスクはもちろん大きく、ギャンブル的なやり方でもあります。したがって、なるべく少人数、低予算で進め、失敗も許容範囲として考えておく必要があります。
さて、最新技術の秘密開発部門がどうしてスカンク・ワークスと呼ばれるのかということに話は移ります。これは、1935年からアメリカで新聞に連載されていたマンガ、「リル・アブナー(Li'l Abner)」に由来します(リル・アブナーというのは主人公の名前)。作者はアル・キャップ(Al Capp、本名 Alfred Gerald Caplin、1909-79)という風刺マンガ家です。余談ながら、かの手塚治虫氏はこの「リル・アブナー」を読んでいたようで、自分のキャラクターのモデルに使ったこともあるそうです。
さて、このマンガの中で「スカンク・ワークス」とは、人里離れた場所で、ヘアレス・ジョーと呼ばれる男(本名はBig Barnsmellというらしい)がスカンクたちと一緒に、キカプー・ジョイ・ジュース(Kickapoo Joy Juice)という名の密造酒づくりに励んでいる場所でした(ジョイ・ジュースは俗語で酒のこと)。しかし、この密造酒の原料というのが……履き古した靴? スカンクの死骸? そういうものだったらしく……どんな酒ができたのか知りませんが、とにかく周囲に悪臭が漂っていたことは間違いないでしょう。人里離れた場所にあったのは、役人に見つからないためだけではなさそうです。
さて現実世界のロッキード社で、P-80秘密開発プロジェクトのために用意された場所は、サーカスのテントを転用した急ごしらえのもので、おまけに悪臭のひどいプラスチック工場の隣に位置していました。暑い夏の日、その悪臭に耐えかねたエンジニアが「ここはまるでスカンク・ワークスだよ」と言ったことから、その名前が愛称として定着してしまったのだといいます。
ただし、アル・キャップ氏がその名前の使用に異議を唱えたため、綴りを変えたという話もあります。「リル・アブナー」では「Skonk Works」でした。「スカンク」の綴りは通常「skunk」で、「skonk」は方言のような綴り方であるようです。
現在では、「リル・アブナー」のスカンクはすっかりロッキード社のスカンク・ワークスのマスコットになってしまったようで、通販でTシャツなどがよく売られています。
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