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スカンクワークス

skunk works / skunkworks


 革新的な製品・技術などを開発するために既存の研究組織とは別に設置される、(秘密の)独立型研究開発チームのこと。秘密裏に進められるプロジェクトを指すことがあり、さらに転じて技術者個人や少数チームが会社に報告せずに行っている研究開発活動をいう場合もある。

 軍需産業や競争の激しい業界では、秘密保持のため新規製品の開発チームを既存組織とは切り離して設置することがある。物理的にも隔離して、存在自体を秘密にする場合もある。

 独立組織とするメリットは、既存組織の束縛から解放されてゼロベースで解決策を考えることができる点で、少数精鋭でチームを構成すれば決断も早く、メンバー個々人の力を最大限に発揮できる環境が得られる。これらの面を期待して、特別なミッションを果たすために、特別な権限が与えられた研究開発チームが“スカンクワークス”である。

 画期的なイノベーションの創出においては組織モデル以上に、研究者・技術者個人の意欲と独創性を活かすことが大切となる。そのことを知る研究開発組織では、研究者・技術者が会社から与えられた業務とは別に私的な研究を行ったり、すでに中止を宣告されたプロジェクトをこっそりと続けたりしている場合、見て見ぬふりをすることが少なくない。米国の化学大手企業スリーエムで推奨されている“ブートレッギング”のような秘密研究を、シリコンバレーでは“スカンクワークス/スカンクワーク”と呼ぶようだ。

 「スカンクワークス」とは本来、米国の防衛・航空機メーカーであるロッキード・マーチンの先進開発部門「ロッキード・マーチン先進開発計画」の通称である。第2次世界大戦さなかの1943年、欧州戦線にドイツのジェット機が登場すると、米陸軍航空隊(現在の米空軍)の航空技術業務司令部はロッキードの主任設計者(後に上級副社長)であるケリー・ジョンソン(Clarence Leonard "Kelly" Johnson)にジェット戦闘機の設計を依頼した。ロッキードは、秘密保持と当時33歳の天才技術者への便宜を図るため、彼に2〜3人の設計者と30人の職工を与え、事実上の独立チーム結成を許可した。

 このときのロッキードは24時間のフル操業で軍用機を生産しており、既存の施設に空きがなかったため、ジョンソンらは悪臭に満ちたプラスチック工場の隣に大型テントを借りて設置した。テント内は常ににおいに悩まされたことから、アービン・カルバー(Irving Culver)という技術者がある日掛ってきた電話に「はい、こちら、スコンクワークス」と応答したという。

 これは、ちょうどそのころに流行していた『Lil' Abner』という漫画に登場する密造酒工場の名前に引っ掛けたものだった。ジョンソンは激怒したと伝えられるが、愛称は定着する。ただし、そのときの名前(スコンクワークス=skonk works)は法律上のトラブルを避けるため、1960年にロッキードがつづりを「Skunk Works」に変更のうえ、商標登録している。

 1943年に依頼のあったジェット戦闘機は、わずか143日後に「P-80 シューティングスター」として結実した。第2次世界大戦の終結後もスカンクワークスは、超音速戦闘機「F-104」、高高度偵察機「U-2」、超音速戦略偵察機「SR-71」、ステルス攻撃機「F-117A」、最新鋭戦闘攻撃機「F-22A」など、斬新な機体を多数生み出している。

 1986年にはマクダネル・ダグラス(現在はボーイング)が研究グループに「ファントムワークス」の名を冠するが、最先端開発チームの代名詞は現在でも“スカンクワークス”のようだ。

参考文献

  • 『ステルス戦闘機──スカンク・ワークスの秘密』 ベン・R・リッチ=著/増田興司=訳/講談社/1997年1月(『Skunk works』の邦訳)
  • 『なぜ組織は「イノベーション」をつぶすのか?』 エイドリアン・ブラウン=著/池上孝一、鈴木敏彰=監訳/立木勝=訳/ファーストプレス/2007年8月(『Creativity & innovation』の邦訳)
 
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