第2話
「北の天使
〜ため息」
ぽつり、ぽつり、と
降りだした、雨が、
真っ白な雪に変わる、
地に落ちて溶けて
消えゆく雪を見ていると、
あの子の足となって
生きていた
あの17年間を、
思い出す。
二○○四年二月十日
この日の朝はアスファルトの
水溜りに氷が張るくらい冷え込ん
でいた。
私はお供え用の花を持ち二十回目
の墓参りに出かける。
私はもう二十年が過ぎたのかと
思いながら宮崎県を南から東へ
流れる大淀川に架かる高松橋を
渡り十分程歩くと左手に
【宮崎市共同大塚霊園】の案内板
が見えてくる。
そこを左に曲がり三○○メートル
ほど行くと児玉家の墓がある。
塔婆が立ち並び、真新しい花が
供えてある。
私は親族の方がお参りされたのだ
と思い、花を変えお線香を供え
両手を合わせる。
南国宮崎なのに二月にしては冷え
込みが厳しくなったなと思い、
空を見上げると白い雪が降り始め
てきていた。
何年ぶりだろう雪を見るのは。
私は三十八年前のあの日の朝も、
雪が降っていたのを思い出しなが
ら、降り続く雪を見つめていた。
人は涙の数だけ
幸せになれる
ため息の数だけ
幸せが逃げて行く
そう話していた由香李との出会い
は...
〜 北海沙諏華著「白い恋人」
第1章「雪」より 〜
牧歌舎刊
ISBN 978-4-434-05907-0
(4-434-05907-6)北海沙諏華先生に特別のご許可
をいただき転載させていただき
ました。m(_*_)m
俺は菜穂美を家まで送り届けた後
木下を連れてミリタリーショップ
「ノルマンディー」へ来ていた。
相変わらず店は常連の銃器ヲタク
達で繁盛していた。
店長より一通りの業務報告を聞き
新製品の仕入れや夏のボーナス
フェアの企画案の詳細を詰めてい
た。
「と言うわけで改正銃刀法に触れ
ない程度の長物とハンドガンを
主体にボーナスフェアを展開し
ていきたいと考えております」
「よっしゃ、わかった。
店長の素案通りでエエと思う。
他のメンバーにも意見を訊いて
あんじょうやって下さいや。
木下。
お前から何ぞあるか?」
「いえ、特には」
「ほな、店長そう言うことで」
「はい、かしこまりました」
ノルマンディーを出た俺は旭屋の
扉を潜った。
梅田には紀伊國屋書店と旭屋書店
と言う大型書店がある。
そして最近Bookファーストが
でき、大型書店が凌ぎを削るよう
になった。
以前は御堂筋沿いに立地する旭屋
書店と阪急電車梅田駅1階に立地
する紀伊國屋書店だけが大型書店
だった。
俺は今でも時々書店に足を運ぶ。
最近は書店まで足を運ばなくても
インターネットで注文して自宅へ
届けるネット通販やコンビニで受
け取ることのできる通販もあるの
だが...
俺は実際に出版されたものを手に
取り、ざっと立ち読みをしてから
買う方が好きである。
印刷インクの匂いを楽しみながら
作者の世界に思いを馳せる。
アナログな人間かも知れないが俺
は書店(本屋)が好きだ。
ふと、文芸書のコーナーを見ると
サイン会の掲示がされていた。
「『北海沙諏華先生』サイン会の
ご案内」とポスターには書かれて
あった。
足を止めてポスターに見入る。
「(懐かしのぉ・・・)
確かこの本は・・・」
「兄貴。
何すかこれ?
白い恋人?
何や北海道のお菓子みたいです
やん」
ボコッ
「おまえのぉ・・・」
窘める前に手が出てしまった。
「まぁ、読んだことないんやった
らしゃあないけどのぉ」
いきなりど突かれた木下が目を白
黒させた。
「(確かサイン入りの初版がどこ
ぞにあったはずや。
もっぺん家帰ったら読んでみる
かのぉ・・・)」
この著者の純愛に心打たれた記憶
が甦った。
確かハッピーエンドではなかった
が悲恋とはちと違う大きな力を感
じたものだった。
「愛すると言うことは
忘れないこと」
愛する者が先に命の炎を消し黄泉
の世界に旅立ったとしても愛した
ことをけして忘れてはいけない。
そんな、著者の強い思いを感じた
ものであった。
俺は一度結婚に失敗している。
もう忘却の彼方に霞んでいる美紀
との記憶。
そして和代とのつかの間の愛。
ふと心は過去へと飛んでいく。
結婚の幻想を教えてくれた美紀。
嫌い嫌いとボロカス言うとったが
結局俺を好きやった光恵。
「幸せは小さな幸せを
感じる人の所に
集まるの。
祈っても頼んでも
集まらないのよ」
そう言って小さな「幸せ」のこと
を教えてくれた和代。
この3人は間違いなく俺の人生に
足跡を残していきよった。
ほろ苦い思い出と共に。
「兄貴、兄貴。
どないしはったんですか?」
木下が俺の肩を揺すっていた。
「おおっと。
あっちの世界に行きかけとった
みたいやのぉ。
帰ろかい」
しばし心が過去を旅していたよう
だ。
「木下。
京子とはうまいこといっとんか
?」
「兄貴。
何すか藪から棒に。
あいつも、ようようわしのこと
わかってきたみたいですわ」
「ほんまかいや?
相変わらず綺麗なお姉さんの後
ばっか追いよんやろが?」
「怖いこと言わんで下さいや。
そんなことしたら電撃ですやん
か」
「あん?
おまえ電撃が怖ぁて追い回すん
やめたんか?
そらぁあかん。
あかんぞ。
そら、お前間違うとる」
「よぉそないなこと言いはります
わ。
兄貴。
お言葉ですが、...
わし、あいつのこと愛してまっ
せ」
「おろ〜?
いやいやいやいや。
大口叩きましたな木下く〜ん。
嘘ついたら針千本やで」
「むむむむ・・・
10本くらいにまかりまへんか
?」 バシッ
「痛ぅ〜」
「ほれ見てみぃ。
罰当たりよった。
がはははは」
「よぉ言わんわぁ。
わし最近浮ついてませんで」
「そう言うことにしといたるわ」
俺は「白い恋人」を1冊手にとる
とカウンターへ向かった。
金を払いカバーの掛かった本を受
け取った俺は後ろにいた木下に渡
した。
「これ読んでみぃ。
できたら京子にも読ましたれ」
「え゛?
わしが読むんすか?」
「何や不満か?
そろそろ南港の水も温なったん
とちゃうか〜?」
「はぁ〜・・・」
「くるらぁ
ため息つくな言うていつも言う
とるやろうが
ため息ついたらそんだけ幸せが
逃げていくんやぞ。
どアホっ」
俺達は旭屋書店を後にした。
※この小説は、『フィクション』
です。
実在の場所を使用していますが
登場人物、団体は、全て架空の
ものです。
☆この小説の著者は「わたし」
です。
著作権は「わたし」にあり
ます。
☆使用している画像は、各々に
作られた方がおられます。
本来ならば、二次使用のご挨拶
をさせていただくべきですが
この場を借りましてご挨拶と
代えさせていただきます。
本編に北海沙諏華先生著作
「白い恋人」
の冒頭部分を挿入させていただき
ました。
快く引用の許可をいただき改めて
厚く御礼申し上げます。
ありがとうございました。
頼光 雅(らいこう みやび)
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