大きすぎてつぶせなかった--。米政府が、シティグループへの大規模な追加救済策をまとめたのは、世界最大級の金融機関を破綻(はたん)させれば計り知れない被害が地球規模で及ぶと考えたためだ。
シティには、約2・5兆円の公的資金を資本注入したばかりだが、新たに約2兆円をつぎ込み、加えてシティが抱える不良資産から今後発生する損失の大半を政府が負担する、という前例のない救済となった。
今回も市場に追い詰められて週末に対策をまとめる、という9月以降のなじみのパターンである。政府の危機への認識が甘かったということと、いまだに米国発の金融危機が解決にほど遠いことを示している。
他の金融機関とともに受けた最初の資本注入や大規模なリストラ策にもかかわらず、シティの株価は急落を続けた。抱える不良資産の大きさとその抜本的な処理の道筋が見えなかったためだ。そこで、不良資産を約30兆円と確定し、政府の保証をテコに、その最終処理を進めようというのが今回の対策である。
難航の末に成立した金融安定化法はもともと、金融機関からの不良資産買い取りに公的資金を使うというものだった。しかし「それでは時間がかかり過ぎる」となり、直接、資本注入に使うよう切り替えたばかりだ。それを再変更し不良資産売却に伴う損失の穴埋めにも公的資金を使うことにした。明らかな迷走だが、それでも世界100カ国以上に展開し、金融市場の中枢に位置するシティの破綻を許すことは、現実的な選択肢となり得なかった。
だが、混乱の末これほどの救済策をとってもなお、危機の出口は見えない。
まず、シティの不良資産の処分がどの程度進むのか、最終的な損失が30兆円の枠内で収まるのか不明である。他の大手金融機関が同様の支援策を求めてくることも考えられる。さらに、支援の対象を、自動車業界や個人の借り手に拡大した場合、金融安定化法で用意した公的資金枠70兆円で果たして足りるのか、との疑念が出てくる。
これまでの米政府の対応には、「場当たり的」「後手に回っている」との批判がつきまとってきた。対症療法ではなく、早く市場の信頼回復につながるような危機克服への工程表を示してほしい。
唯一の救いは、オバマ次期大統領が早々に経済閣僚人事を固め、現政権と連絡を取りながら、金融安定化策に着手しようとしていることだ。「この経済危機は米国だけの危機ではなくグローバルなものである」との認識のもと、世界との協調を唱えている。ただ、震源地の米国で危機の炎が収まらないことには、グローバルな危機の解消もあり得ない。現政権も次期政権も、問題の先送りは許されないのだ。
毎日新聞 2008年11月26日 東京朝刊