一体、麻生政権は何をしたいのだろう。この漂流ぶりは深刻である。
麻生太郎首相と自民、公明両党執行部が25日、今年度第2次補正予算案の今国会提出見送りを決めた。「景気対策が緊急課題」と繰り返し強調していたのは首相だったはずだ。それを年明けの通常国会に先送りするというのでは、まるで筋が通らない。
首相と小沢一郎・民主党代表との先の党首会談(17日)で、小沢氏は2次補正の今国会提出を迫り、提出されれば「審議をいたずらに引き延ばすことはしない」と述べたという。だが、首相は「(小沢氏の)話は危ない。信用できない」から先送りするという。
民主党が約束を破れば国民の批判は民主党に向かうだろう。補正予算を一刻も早くというなら、まず提出し、成立に全力を挙げるのが政権として当然の話だ。
今年度は税収が当初見込みより下回り、その数字を固めるのに時間がかかるともいうが、これも首相が財政当局に急がせれば不可能な話ではない。首相は25日、従来の発言と「全然、矛盾しない。緊急性を要するものは既に成立した1次補正予算でかなりまかなえる」とも語ったが、これも説得力に欠ける。
結局、最大の理由は、麻生首相が急速に求心力を失う中、このまま国会を長く続ければ野党に追い込まれて衆院解散となる事態を恐れているからなのだろう。
臨時国会は延長しても、インド洋給油活動を延長する新テロ対策特別措置法改正案と金融機能強化法改正案の審議に大半の時間は費やされることになる。民主党が採決に応じなければ、参院で「60日ルール」を適用したうえで、衆院での再可決が必要だ。民主党の引き延ばし戦略もほめられないが、こうして「前に進まない国会」になることこそ政治空白というべきだ。
それにしても、与党が不安になるのも無理はないと思えるほどの麻生首相の迷走ぶりだ。
定額給付金問題で二転三転したのをはじめ、首相は失言と陳謝を繰り返す一方、道路特定財源の地方への配分や日本郵政グループの株式売却問題など朝令暮改のような発言も目立っている。漢字の読み間違えや政策に関する基本的事実の誤認など首相としての資質を問う声も出始め、与党も真剣に支える空気が薄らいでいるように見える。
再三指摘しているように解散から逃げたツケは大きかったのだ。米国は金融危機の最中に大統領選が行われたが、オバマ大統領就任に向け、日本より「前」に進んでいると感じる国民は多いのではなかろうか。
一方、小沢氏が国会での党首討論に応じたのは当然である。党首討論を取引に使うのではなく、今の政権の何が問題なのか、国民の前で堂々と議論を戦わせればいい。
毎日新聞 2008年11月26日 東京朝刊