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社説

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米新経済チーム―期待の船出を待つ難題

 オバマ米次期大統領が、新政権で米国経済の立て直しに取り組む経済チームの人事を発表した。

 オバマ氏は「今日から仕事が始まる。1分でも無駄にできない」と述べ、過去最大級の景気対策の策定に取り組むことも明らかにした。

 財務長官になるティモシー・ガイトナー氏はオバマ氏と同じ47歳。ニューヨーク連邦準備銀行の総裁として、金融危機対策の陣頭指揮を担ってきた。

 国家経済会議(NEC)の議長になるローレンス・サマーズ氏は、ハーバード大学長も務めた著名な経済学者だ。クリントン政権では財務長官としてアジア通貨危機に対応した。今度はホワイトハウスから経済政策全般を取り仕切る。2人ともその手腕には定評があり、国際的な視野も広い。

 同時に発表された大統領経済諮問委員会(CEA)のクリスティーナ・ローマー委員長、医療制度改革などを進める内政会議(DPC)のメロディ・バーンズ議長は、ともに女性だ。

 すでに固まった陣容をみると、議会との太いパイプをもつエマニュエル大統領首席補佐官をはじめ、安定感がある。共和党からも閣僚を起用して「超党派」の姿勢もアピールする意向だ。党候補指名で争ったクリントン氏にも国務長官への就任を打診したとされる。若手や女性を登用しつつ「継続と安定」にも配慮した布陣だ。

 来年1月20日に大統領に就任するまで、まだ2カ月近くもある。閣僚らの人選を異例の早さで進めるのは、言うまでもなく直面する経済危機が深刻の度を増しているからだ。政権移行の空白は一刻も許されない、という強い覚悟の表れといえる。

 だが現実の動きは、オバマ氏の対応を待てずに加速している。金融不安が大手銀行シティグループの経営危機でぶり返し、政策への信頼感が再び揺らぎ出したのだ。

 シティには不良資産の損失に対する政府保証と追加の公的資本注入が決まった。「半国有化」というべき措置だが、これでも打ち止めとは言えない。他の銀行はどうか、金融安定にどれだけの公的資金が必要になるのか、むしろ不透明感が増している。

 今後は、産業や家計といった実体経済が不況でどれだけ打撃を受けるかにも大いに左右される。金融危機対策と同時に、疲弊した産業の競争力を回復させ、負債にまみれた家計を立て直す。これらを三位一体として改革し、米国を再生させるビジョンを提示することが急務になっている。

 同時に、こうした対策を大胆に打ち出していくと、財政的な制約に直面することになるかもしれない。

 経済政策に期待が高まるオバマ次期政権の前途には、船出する前から大型のハリケーンが待ち構えている。

補正先送り―「逃げない政治」はどこに

 にぎやかな自民党総裁選を経て、麻生政権が誕生したのはわずか2カ月前のことだ。余勢を駆って衆院の解散・総選挙に突き進む。そんなムードが高まっていたのに、空気は一変してしまった。いまや何はともあれ解散回避。麻生首相と与党はすっかり歩調を合わせたようだ。

 首相はきのう、緊急経済対策の裏付けとなる第2次補正予算案を今国会には出さず、来年1月の通常国会に先送りすると表明した。解散・総選挙は来春以降という見方が、与党内では大勢になっている。

 2カ月前を思い起こしてみよう。所信表明演説で、首相は民主党に質問を連発し、「私は逃げない」「責任と実行力ある政治を行う」と対決をあおった。それからすると、まさにとんでもない様変わりである。

 ひとつの理由が「100年に1度」と首相が呼ぶ世界金融の混乱や景気の先行き不安にあるのは間違いない。緊急の経済対策こそが最優先課題、「政局より政策だ」という首相の説明はそれなりの理屈ではあった。

 だが、経済対策の土台となる補正予算を先送りするというのでは、この理屈を自ら吹き飛ばしたに等しい。予算案の審議に協力するという民主党の小沢代表の言葉は「信用できない」からと首相はいう。それで納得できる有権者がどれだけいることか。

 民主党は年明けの通常国会で解散に追い込もうと、いよいよ意気込んでいる。補正予算や関連法案が成立するかどうか、不透明さを増してきた。

 これでは、中小企業の年末の資金繰りに欠かせないと首相が強調した対策のあれこれは、早くても来春まで先送りになる。首相が逃げるほどに、肝心の経済対策の実現が難しくなる。皮肉な構図に陥ってしまった。

 首相も与党もこうした矛盾は承知のうえだろう。それでも先送りせざるを得なかったのは、結局のところ、いま解散に追い込まれたら政権を失いかねないという恐怖感が日に日に高じているせいに違いない。

 さすがに先週、塩崎恭久元官房長官や渡辺喜美元行革担当相ら自民党の中堅・若手が2次補正を今国会に出すべきだ、と河村官房長官に求めた。解散先送りはともかくとして、政策の筋は通してもらいたいということだろう。

 これに対し、与党内からは「敵に塩を送るようなもの」などと批判の声が出ている。早期解散を強く求めてきた公明党も、その旗を降ろしてしまったかのようだ。与党全体が縮こまってしまった。

 フジテレビ「新報道2001」の先週の首都圏の世論調査では、経済対策と総選挙のどちらが先かという質問に、58.4%の人が総選挙と答えた。政治の閉塞感(へいそくかん)は深まるばかりだ。

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