警察署の近くに引っ越して三年になります。長年、岡山県警回りを担当していて、これも一つの縁なのでしょう。
見慣れた光景は屋外での朝礼に始まり、パトカーの始業点検。逮捕術の訓練では署員の気合がみなぎります。免許更新などの来庁者が帰り、当直に入る夜は雰囲気が一変します。初動班の刑事が乗った覆面パトカーが慌ただしく出入り。軽微な交通事故、ひったくり、侵入盗、警報機の誤作動など、新聞に載らないような事案で出動するケースのほうがむしろ多いのです。
深夜の駐車場にたたずむ人影は事件事故の関係者でしょうか。へたりこみそうになる女性を気遣う署員。眠らない“治安の要”では、幾多の人間ドラマが繰り広げられています。
一方、仕事となれば、記者は警察署の日常の変化を見過ごすと痛い目に遭います。
普段、消灯している部屋の明かりが深夜までついていないか。霊安室に出入りがあれば変死事件の可能性もあります。逆に警察としては、汚職など重要事件をマスコミに悟られるわけにはいかず、夜間の会議室に暗幕を張ったり、重要参考人の取り調べに宿泊施設を使うこともあります。いろんな駆け引き、攻防がありますが、百戦錬磨の捜査陣にけむに巻かれることのほうが多く、その悔しさが今後の財産となります。
十二月から福山で二十数年ぶりに勤務します。駆け出しの原点・福山東署では、お世話になった刑事さんたちが今も活躍中。再会を楽しみにするとともに、若い記者には警察署のさまざまな光景から学んでほしいのです。
(社会部・広岡尚弥)