移民にDNA鑑定?
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作成日時 : 2007/09/29 05:22
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へえ、こんな議論があったなんて…これまでの新聞の読み方がつまってなかったってことですね。まあ、しかし私も長期滞在者なんで全くの無関係とは言えませんが。9月28日付のLe Mondeによれば、現在、国会では「移民に関する法律案」が審議されているようなんですが、衆参両院で多数を占める与党であるにもかかわらず、参議院で与党が苦戦を強いられているようなのです。特に、法律案にある内容の中でも、(1)フランスにいる家族と共に暮らすために長期滞在ビザを申請する際に同一家族であることを証明するためDNA鑑定を義務付けること、(2)その長期滞在ビザを申請する際には最低賃金の1.33倍の収入源を必要とすること、(3)同様に出身国において相当のフランス語の能力を取得すること、の3項目について議論が白熱しているようです。
これらの項目については参議院の法律委員会(参議院には文化、外交・防衛・軍備、財政、経済計画、社会、法律の6つの常設委員会がありその一つ)において修正が加えられたようなのです。すなわち、社会党などの野党だけでなく、比較的政策観が近い中道右派や、与党UMP内からも反対が出て、最終的には24対13で衆議院の法律案は否決されたのです。今後、参議院本会議でこのまま結論付けられれば、首相の申請により衆参両院評議会が開かれ議論が進められる形となるのです。移民担当大臣であるブリース氏は、今後細かな修正を認めてでも大筋の内容、特にDNA鑑定については議員に理解を頂くよう努力すると述べていますが、大方の予想ではこの法案は参議院で否決されるようです。
DNA鑑定…うーん、ここまでやる必要があるのかなあって感じですねえ。まあ移民問題を抱えるフランスならではなのでしょう。実際、EUのほかの国、例えばドイツ、ベルギー、イギリスなどでもこのDNA鑑定が行われているようなのですが、どの国も法律レベルで行っているわけではありません。DNA鑑定はあくまで行政レベルで行う、特定地域出身の人間を対象とする例外的措置なのです。例えばスペインの場合、1年前から外務省の権限でDNA鑑定を例外的に行うことが認められ、中国やナイジェリアからの入国者が対象になったようですが、DNA鑑定の費用は行政が負担し、たとえ申請者がDNA鑑定を断ったとしても、それが直接長期滞在ビザの拒否要因にはつながらないのです。
記事の中のヨーロッパ評議会の委員が述べるには、家族というのは別に血がつながっている必要はないわけで、例えば孤児として養子に入れてもらった子供とかはどうするのかといった問題をとりあげていましたねえ。先進国では稀でしょうが、後進国では例えば両親が亡くなった場合にその子供が他の家族に預けられ完全にその一員になることがよくあるそうです。また、「子供の人権条約」によれば、子供の権利を勘案し、養子か何かで彼らが別の家族と一緒になる場合には、人間性と尊厳をもって積極的な態度で議論されるべきと記されているようで、そこらへんも絡めていましたね。いずれにせよ、彼が言うには、DNA鑑定を行うことは人権侵害であり、もしフランスが法制化してしまえば、移民に苦しむ他のEU諸国も真似してしまい、ヨーロッパで一般化してしまうのではないかと危惧していました。前述のスペインでも、家族と一緒に暮らすために長期滞在ビザを申請してきた人の数は、2000年の12ケースから2006年には10万ケースに急増しているようなのです。こういう過度の移民の急増に悩んでいる各国政府は、もしかしたらフランスのように裏で法制化が必要なんじゃないかと考えているのかもしれません。(終わり)
(参考)人口減少と移民政策
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