2008-11-22

はてブでこんな意見が人気だったんで、書店員として思ったことを書いてみます。
こんなことをしたら、一瞬でその店は潰れるのではないでしょうか。都会の大型書店ならアリとか書いてる方もおられるようですが、完全にナシだと思います。大体、このアイデアに賛同されている方は、本屋という商売のビジネスモデルをご存じないのでしょう。本屋は集客してなんぼの商売なのです。
最近の書店の悩みは、客数減に歯止めがかからないことでしょう。そのため、売上が下がり続けた書店の閉店が相次いでいます。立ち読み目的のみの客だけが減る、というそういう都合のよいことがおきればよいのですが、そんなことはないのですよ。買い上げ客数は、来店客数に比例しているため、来店客数が減ると買い上げ客数も減って、売上も下がるんです。大体その書店の駐車場が有料になってるだけでも、来店客数が減って売上は10%以上減ってしまうのです。無料駐車券がもらえてもですよ。書店で入場料をとったら、売上は確実に激減するだろうと思います。そしてそれは大抵の書店の場合、入場料収入では補填できないレベルの致命傷になるのではないでしょうか。
予約制本屋さん 人気 : 出版トピック : 本よみうり堂 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
しかしこの店は店主の希望もあって1年で閉店しています。一概に比較できる事例とは言えないかもしれませんが、私の中では、あくまでこの企画は趣味の世界の話であって、ビジネスで成功する話ではないのだという認識は変わりません。
書店のユーザーは多様でして、多様であるが故に、商売が成り立っている面が強いのです。逆に言うと、ある一部特定の客層のみで成り立つ書店は、利益率が低い現在の日本では作ることができない、とも言えるわけです。いや作ろうと思ったら作れるけど、大赤字ですぐ潰れるんです。ギリギリ成り立つのは、強いてあげればとらのあなみたいな都心のコミック専門店か、売上の70%が雑貨というヴィレッジヴァンガードぐらい。
一度仕入れたらその後の商品投資が少なくてすむ図書館だとかコミック喫茶だとか、書斎貸しますというような商売なら、まだ何とか成り立つのですが、そうなったらそれはもう書店ではないですし。
でもまあ、新横浜ラーメン博物館の書店版みたいな、付加価値をつけた書店テーマパークをつくれば、全国で一箇所くらいはひょっとしたらいけるかもしれませんね。あ、もちろんそれは観覧車をつくるとか、そういう方向性ではないことは確かだと思いますが。
個人的に、今の日本では間違いなく失敗するビジネスモデルだと思いますが、将来的に日本の書店の利益率が改善されたら、このような、お客様をセレクトする店舗も出来ていくと思います。そうなるといいなぁと本気で思いますし、いつの日かそれを実現するために、日々働きますよ私は。
ただ、読んでいて示唆されるものがあったのも事実です。
そこで、書店のヘビーユーザーを満足させるだけでなく来客数を増やすための別案を提案します。
「会員制カードによる来店ポイントの付与」です。元の記事の「入場料を取って来店者数を制限する」という発想とは真逆かもしれませんが、「ポイントを差し上げてでも来店者数を増やす」ための提案です。
「書店は集客が命」というのは、まさしく通りだと思います。極端な話、本を買うつもりがない待ち合わせでもひまつぶしでも、人が入らないより入るほうがいい。だからこそ立地が重要になるわけです。
来店したお客様に満足していただくための、品揃え、こじゃれた空間、店内のカフェ、検索機、などなどは格段に充実してきましたが、「店の外にいるお客様を店内に呼び込む」ための方法論はまだまだ不足しているように思います。
そこに、「会員向けの来店ポイント」が成立する余地はありそうな気がします。既に会員制のカードシステムを持っているTSUTAYAや三省堂書店や日販などであれば来店ポイントの導入の敷居は低いのではないでしょうか。
この場合、全く関心がない見込み客の確保というより、足繁く通うロイヤリティの高い顧客を囲い込むイメージの方が近いかと思います。ポイントで還元するのは金券だけではなく、グッズや、お店によっては店内のコーヒーチケット等もありかと。TSUTAYAがポイントで配った映画や本のカタログは次につながるナイスアイディアだと思いました。グッズであれば、出版社から提供の可能性もありそうです。
もちろん、具体的にどの程度のポイントを付与するのかとか、ポイントだけを目的とする客をどうするかとか、色々課題はあるとは思います。
ですが、本屋に限らず、客商売では客が客を呼ぶのは必至です。ゆったりした店内で本を探したいマニアもいるかもしれませんが、多くのお客様は誰もいないがらんとした店内に足を踏み入れる勇気はないはずです。
夢物語、ですかね。
http://www.academyhills.com/library/index.html
http://www.academyhills.com/library/information/admission/
これは月会費を支払って内部にでのみ本を読み、持ち帰る場合は購入する(10%引き)、というものです。ロケーションの良さ(40F、49Fからの夜景)と膨大な最新図書などが置いてあります。
ただ問題点もあり、
1)居る客によってはほとんど飲み屋みたいな煩い状況にもなる
2)図書は多いことは多いが必ずしもあるわけではない(注文はできる)
3)夜間までやってはいるが、仕事帰りだとそうそう行けるわけではない
などがあります。
個人的には元記事はかなり実際には初期投資と資金面、棚坪面積の面などから難しいと思いますが、いずれ本屋ではなく図書館のような形で有料図書館の一環として生み出されるかもしれない、と思いました。
入場料が取れるだけの有形無形のコンテンツを書店が客に提供している(できる)のかという観点が欠落している。
なぜ客は書店へと足を運んでいるのか、その理由を考えたことなどないのであろう。
既存書店は好む好まざるを別としてロケーションフリーなネット書店と常に対峙せねばならない。
リアル店舗としての旨みは果して何なのか。
入場料を取っても成り立つような、ネット書店にはない強みはあるのだろうか。
書店員がそういう考えから逃避してしまっていてはもう先は長くないであろう。
コメントありがとうございます。成立するんだったらとっくに成立してるはず、というご意見には本当にそう思います。
店の外にいるお客数を増やすという販促は、実は一番書店の苦手とするところで、各社苦労されていますね。来店ポイントは、たとえば今ファミマでTカードを買い物時に出したら1ポイントつくようになっていて、買い物時のポイントも含めて確かに来店動機になっています。ただ、毎日のように行くコンビニだからこそついでにポイントつけてもらう、という行動に結びつくのですが、毎日書店に行くという人は稀ですので、その人がわざわざわずかな来店ポイントのために、来るかとなるとちょっと微妙かもしれません。でもやってみる価値はあるかもです。最近のTカードは、相互送客というのをやり始めていて、たとえばガストで食事した際に、その人のツタヤの購買履歴を調べて、最近あまり来店してないなーということだと、ツタヤの割引券が出る、みたいなシステムになってるそうですよ。私もツタヤでファミマの割引券をレジクーポンでもらったことがあります。
ヘビーユーザー対策ということだと、会員専用レジとか、海外にはそういうサービスもあるみたいですね。
コメントありがとうございます。私もこの話を聞いたとき、六本木ヒルズの会員制図書館を最初に思い出しました(行ったことはありませんが)。
実際に有料図書館や、書斎貸し出しサービスという業態はすでに存在していますので、快適な選書空間を実現したいとうお客様は、そちらを利用したほうがいいのだろうと私も思います。実際、その中には書店が経営していたところも確かあったように思います。
まあ、ただ仮に経営が成り立つようになったとしても、そういう店をやりたいと思うかどうかは、ちょっと別問題かもしれません。たとえば、ビルゲイツ専用の書店、というのを考えたことがあります。彼は年に数回しか来店しないのだけれども、一度に数千万円の本を買ってくれるので、経営がなりたってしまうという店があったと想像してください。店員は、その年数回の来店のために、日々いい棚を作り続けるわけです。
お客様をセグメントしていくというのは、暴論ですけど、最終的にはそういう思想だと思っておりまして、そりゃビルゲイツはいいだろうけど、そんな書店ってどうなの?と。そもそも本というものの本質を考えたときに、それは正しいあり方なの?というところが常に疑問でして、六本木ヒルズの会員制図書館の話を聞いたときも、同じことを考えてしまいました。
青臭いといわれるのかもしれませんが、私は出来るだけ多くの方にご利用していただける本屋のほうが好きなんです。
コメントありがとうございます。なぜ客は書店へと足を運んでいるのか、その理由を、結構考えているほうだと個人的には思っているのですが、まだまだ足りないようで申し訳ございません。
入場料が取れるだけの有形無形のコンテンツを書店が客に提供している(できる)のかという観点が欠落しているとのご指摘ですが、論点はそこではありません。要するに、入場料が取れるだけの有形無形のコンテンツを、大多数のお客様は書店に期待していない、あるいは有形無形のコンテンツはあってもいいと思っているが、入場料を払ってまでほしいと思っていない、ということをまずご理解いただかなくては、平行線になろうかと思います。
それから、そういうコンテンツを提供することは、優秀な書店員であればみなできることなんですよ。それでなお、今有料になっていない理由のほうをお考えいただきたかったです。
でも、欲しい本が無い場合の「チャージ」の発想は秀逸だと思いました。