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鳥インフルエンザ:鳥処分しかたないが…「住民感染」報道に怒り--インドネシアの村

 ◇「発生隠す」警鐘も

 新型インフルエンザの発生が心配されるインドネシアのスラウェシ島のパテネ村で、今月中旬、住民17人が強毒性鳥インフルエンザに集団感染した疑いが出た。当局は感染防止のため、村内のすべてのニワトリを焼却処分したが、その後、住民は鳥インフルエンザとは無関係と分かった。パテネ村を訪ねると、住民らは「ニワトリの補償がない」と訴えた。

 南スラウェシ州都マカッサル市の隣にあるパテネ村は、40世帯100人近くが暮らす。今月11日、3歳の男児から87歳の女性まで17人が高熱を出し、病院に運ばれた。50羽近い鳥が強毒性鳥インフルエンザで死んだ直後だった。保健所は100羽以上飼っていた残りの鳥をすべて焼却処分した。

 数日後、政府による検査で、住民は鳥インフルエンザ陰性と分かった。記者は22日、パテネ村を訪ねた。村の入り口にある集会所には、ニワトリの焼却処分を示す垂れ幕。窓には村の地図が張られ、患者が出た世帯と、患者すべての名前が書かれていた。至る所にある鳥小屋はすべて空だ。応対してくれたフセインさん(70)は「(処分は)仕方ない。鳥がいなければ魚を食べる」と答えた。

 村の奥へ進み、一軒の民家でカメラを向けると男性が「やめろ」と声を上げた。男性はズボンのポケットから小さく折りたたんだ新聞を出した。「鳥インフルエンザ集団感染の疑い」と書かれていた。「鳥インフルエンザではなかった。ネガティブ(陰性)だ」と大声を出した。

 男性はルスラン(37)と名乗った。「鳥インフルエンザ集団発生」の汚名を着せられたという怒り。報道への不信もあるようだ。「大切な鳥を処分された。見合う金を払ってほしい」と訴えた。

 国立感染症研究所の砂川富正医師は、新型インフルエンザ発生を監視する国際協力機構(JICA)のプロジェクトで、マカッサル市に滞在している。「住民は季節性のインフルエンザのようだった。新型に変異してからでは手遅れになる」と保健所の措置を支持する。一方、処分後の補償について「何割かは補償されるが、今回は手続きが遅れているのかもしれない。補償がなければ、貴重なたんぱく源の鳥が死んだことを住民は隠してしまう。対策が遅れ、ひいては新型インフルエンザの発生を招きかねない」と懸念する。

 国連食糧農業機関(FAO)は、各国に感染した鳥の処分と補償を進めることを求めており、補償額は国ごとに決める。しかし、鳥処分後の補償問題は各国で起きているという。新型インフルエンザ対策を進めるうえで、衛生教育と金銭補償は途上国共通の課題といえそうだ。【マカッサル(インドネシア南スラウェシ州)関東晋慈】

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 ■ことば

 ◇新型インフルエンザ

 ヒトに免疫がないインフルエンザのこと。アジアで流行している高病原性鳥インフルエンザ(H5N1型)ウイルスが、人への感染力を持つ型に変異して発生する恐れがある。国内で最大64万人が死亡すると予測されている。現在、中国などで鳥インフルエンザのヒトからヒトへの限定的な感染が確認されている。

毎日新聞 2008年11月25日 東京朝刊

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