東京都で脳出血を起こした妊婦が8病院に受け入れを断られて死亡した問題で、断られた理由の一つに新生児集中治療室(NICU)が満床だったことが挙げられている。県内も、埼玉医科大などに計83床あるが、常に満床状態。県はNICUの増床を打ち出したものの、新たに設備を整えても今度は医師不足で稼働できない病院が現れるなど、深刻な状況が続いている。【稲田佳代】
自治医大さいたま医療センター(さいたま市大宮区)に今年3月新設された南館4階のNICUは、完成から8カ月たった今もがらんとしている。今年度から地域周産期母子医療センターとして活躍が期待されていたが、肝心の医師が集まらないためだ。
センターによると、NICUは最低6床を予定し、24時間医師が付きっきりの体制を取るため、稼働させるには小児科医、産婦人科医がそれぞれ約20人必要という。現在は小児科医4人、産婦人科医9人。川上正舒(まさのぶ)センター長は「医師の取り合いで、来ると思っていた人が急にやめることがあり、人員をそろえるのが難しい。できるだけ早くスタートさせたいのだが」と語る。
センターのNICU整備が決まったのは03年10月。県は20億円の制度融資と、施設建設と設備の補助を06年度に計約6125万円行っており、「5年前から進めてきた計画なのに、まだ開設できないとは」とため息を漏らす。
県の試算によると、県内のNICUは最低あと39床が必要。しかし、今年2月にも埼玉社会保険病院(同市浦和区)が医師不足のため10床を休止し、状況は悪化している。上田清司知事は10月28日、東京都の問題を受けて09、10年度にNICUを10床ずつ増やし、11年度までに120床を目指すと発表。「県としても予算をつけて支援したい」と述べた。
これに対し、川口市立医療センターの栃木武一病院事業管理者は講演会で、「医師不足なのに、こんな絵に描いた餅ができるなら東京都も困っていない。(今年度の)7000万円の予算も少なすぎる」と批判。むしろ、広域で搬送先を決定するコントロールセンターの構築を急ぐよう訴え、「どこの地域でもいいからモデル的に始めるべきだ。医師を増やすにも10年かかる。今の少ないマンパワーと限られた周産期医療の資源を活用する方法をもっと考えるべきだ」と話している。
毎日新聞 2008年11月25日 地方版