新型インフルエンザが流行した場合、発熱した人の大多数が医療機関を受診する。国立感染症研究所が実施した意識調査で、こんな結果が出ている。
実際に新型の流行が起きた場合、殺到する人々に医療機関は対応できるのか。厚生労働省の専門家会議が医療体制や感染拡大防止などの指針改定案をまとめたが、準備体制は不十分だ。
新型が大流行すると最大で4人に1人が感染、約200万人が入院、64万人が死亡すると厚労省は試算する。ただ、これは過小評価だとの見方も強い。
タミフルなど抗インフルエンザ薬は、医療機関を受診して、処方せんをもらわなければ入手できない。感染の疑いがある人が病院に殺到するのは当然だ。
国の指針案では、発熱した人が訪れる「発熱外来」を医療機関に設ける。だが、どのような施設が、どのぐらい必要か、具体的な検討はこれからだ。感染者が発熱外来を訪れることで、感染が広がる恐れも指摘される。多数の人が受診し、外来がパンクすることも十分に考えられる。
指針案は、新型が蔓延(まんえん)した場合、抗インフルエンザ薬を電話診療で処方できるとの指針案を示した。ただ、これはかかりつけ医のいる慢性疾患の患者が対象で、感染拡大を防ぐ決め手とはならない。
米国は、個人が家庭でタミフルなどを備蓄することの是非も検討している。抗インフルエンザ薬は万能ではなく、服用のタイミングや誤用の防止など課題は多い。ただ、さまざまな備蓄方法を検討し、法律や制度を見直しておくことは日本でも必要だ。
流行の度合いによって、病院の受け入れ指針が変わることも混乱につながる可能性がある。発生初期は感染者を入院させて拡大を防ぐが、蔓延した場合には重症者以外は自宅療養が求められる。こうした情報提供はもちろん、医師や看護師らの往診体制を整えておかなければ人々を納得させられない。
問題は医療だけではない。指針案は、1例目の患者が確認された時点で都道府県全域を休校にすることを提案している。感染拡大を防ぐ重要な切り札だが、学校が閉鎖されると、自宅にいる子供のために欠勤する親が多くなるだろう。それがひいては、医療・看護などの分野の人手不足につながる恐れがある。
大流行が起きれば、経済活動にも大きな影響が出る。交通機関や電気、ガス、水道なども対応を迫られる。指針は多くの対策を自治体に求めているが、予算も人員も必要で、一筋縄ではいかない。
現在、新型インフルエンザ対策室も専門家会議も厚労省に属しているが、これは国全体の危機管理の問題だ。縦割り行政では対応できず、今から首相直轄の体制で取り組むべきだ。
毎日新聞 2008年11月25日 東京朝刊