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世界はいま、100年に1度ともいわれる経済危機に直面している。不況から脱出するのが最優先だ。何十年も先の地球温暖化を防ぐため、大金を注ぐ余裕があるのか?
そんな疑問をはね返すように、米国のオバマ次期大統領は新たな発想で不況に挑もうとしている。
■オバマ政権で転換へ
道路やダムをつくる従来型の公共事業ではなく、脱温暖化ビジネスを広げていくことで環境と経済の危機を同時に克服する、というのである。
太陽光や風力など再生可能エネルギーの拡大、食用ではない植物によるバイオ燃料の開発、家庭のコンセントから充電できるハイブリッド車の普及……。エネルギー分野だけで10年間に1500億ドル(約15兆円)の国費を投じてグリーン内需を拡大し、500万人の雇用を生むと訴えてきた。
こうした脱温暖化への投資を他の分野へも広げれば、経済への波及効果もさらに高まるだろう。
オバマ氏の政策は「グリーン・ニューディール」とも呼ばれる。1930年代にフランクリン・ルーズベルト大統領が公共投資によるニューディール政策で大恐慌を乗り切ったように、こんどは環境への投資で危機を打開したい。そんな期待がこもる。
温暖化防止のためのさまざまな取り組みに対して、「経済成長を妨げる」と背を向け続けたブッシュ路線から、百八十度の転換である。
世界最大の二酸化炭素(CO2)排出国が「チェンジ」を決断すれば、13年以降の排出削減策の枠組みをつくる国際交渉に弾みがつく。
主要8カ国は「温室効果ガスを50年までに少なくとも半減する」という目標を世界で共有しようと呼びかけている。コンサルタントの米マッキンゼー社は6月にまとめた報告書で、「それには炭素生産性を現在の10倍にしなければならない」と指摘した。
炭素生産性とは、CO2排出1トン当たりの経済規模のことだ。生活水準を下げずに目標を達成するには、再生可能エネルギーへ大転換し、化石燃料の効率も飛躍的に高めないといけない。
■「炭素生産性」を競う
米国にとどまらず、世界各国がグリーン・ニューディールを実践するべき時代に入った、といえる。
まず、先進諸国が低炭素化と経済成長を両立させる政策に乗り出し、経済が拡大する中国やインドなどの新興国や途上国にも同様の政策をとるよう促し、支援していくべきだ。
世界経済は、少しずつグリーン化の方向に動き始めている。
国連環境計画(UNEP)などが9月に出した報告書によると、再生可能エネルギーへの投資が98年の100億ドルから07年には660億ドルへ増えた。これが20年に3400億ドルを超え、30年には6300億ドルへふくらむ見通しだ。「すでに、脱温暖化にあわせた投資パターンの変化が雇用を生み出しつつある」と報告書はいう。
たとえば再生可能エネルギーの分野に限っても、ここ数年間に世界で230万人が働き口を得た。太陽光発電が急速に広がるドイツでは、26万人の雇用が生まれている。
オバマ政権の米国がこの流れを加速させれば、遠からず、低炭素型の産業構造が世界標準となろう。新たなビジネス環境の下で各国の企業が技術開発に取り組み、炭素生産性の高い商品やサービスで競い合う時代がくる。
■チェンジの後押しを
日本では先月、CO2の国内排出量取引の試行に参加する企業の募集が始まった。CO2を多く出せば損をし、減らせば得をするシステムをつくり、低炭素化を促すものだ。
だが、「企業活動の妨げになる」と反対する産業界に妥協したため強制力に乏しく、実効性に疑問符がつく。不況の荒波が予想されるなかでは勇気がいるが、炭素生産性を競う時代の到来を見越して一歩を踏み出そう。
先進国はどこも経済が成熟し、成長のタネを見つけにくくなった。脱炭素は経済の制約どころか、貴重なビジネスチャンスになるだろう。
日本の環境・エネルギー技術は世界トップレベルだ。「チェンジ」の試みも数多い。足りないのは、それを促し後押しする仕組みである。
たとえば、自動車メーカーは、電気自動車や水素を使う燃料電池車を市場に送り出しつつある。ただし、これら次世代車を普及させるには、充電施設や水素スタンドといった社会的な条件整備が欠かせない。
地域レベルの挑戦もある。群馬県東吾妻町では8月、東京ガスなどが出資するバイオマス発電所の建設が始まった。木の枝や廃材を砕いたチップを燃やして発電する。石油や石炭を燃やすのとは違い、CO2を新たには排出しないとみなされる。
出力1万3600キロワットで、2万3千世帯の電力をまかなえる。木くずは群馬県周辺の20社が供給する。規模は小さくても、雇用が生まれ地方経済の活性化に役立つ。こうした事業が各地に育つよう支援したい。
CO2の排出量を大きく減らしながら、同時に経済成長を続けられる、と国立環境研究所などは分析している。「チェンジ」が早ければ早いほど、少ない投資で大きな効果が期待できる。政府はその先頭に立たねばならない。