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映画館と港町は何故か良く似合う。かつてTBSで放送された西田敏行主演のドラマ“港町純情シネマ”のロケ地となった千葉県銚子市─茨城県に隣接する関東有数の水揚げを誇る外房の港町だ。港町の一日は早く、まだ夜も明けきらぬ時間に港から出ていった船が戻り、獲れた魚が市場で競りに出され仕事が終わるのが朝の8時─普通のサラリーマンが出勤する時間だ。海の男たちは仕事帰りに朝食と一緒にビールを飲み、お昼前には仕事から解放される。まだ映画が娯楽の最盛期であった頃…昭和33年に創業以来、数々の娯楽作を送り続けた洋画専門のロードショウ館として港町に唯一残る映画館『銚子セントラル』は銚子市内に留まらず近隣の街からも大勢の人々が訪れた劇場だ。最盛期だった昭和30年代には市内だけでも8館も映画館が軒を連ねていた。 |
そんな華やかな時代もテレビの台頭、そしてレンタルビデオの普及に伴い2000年に入ってから3館を残すのみとなり、今年に入ってから“銚子エイゲキ”と“銚子マリン”の2館が古くから通っていたファンに惜しまれながら閉館してしまった。「昔は遠くからでもバスや歩いて映画を観に来ていたものですが、やはり最近は車でショッピングから映画まで一度に済ませられるシネコンの影響が出ていますよ」と劇場事業部長は語る。設立当初から単独館としては珍しく駐車場を完備していたコチラの劇場は、現在20車を駐車出来るスペースを確保している。「今の若い人たちは街で映画を観ようとしなくなっていますね。昔は何でも商店街にある専門店で買っていたのがスーパーで全て完了して真っすぐ家に帰ってしまう…だから通りを歩く人の姿もめっきり減ってしまって、買い物帰りに映画の看板を観てフラリと立ち寄るお客様も少なくなってきましたよ。ウチみたいな地方で興行を行っている単独館1館だけでは設備を強化するだけではダメなんです」と言われる通り、銚子だけではなく全国で同じような光景が見られるようになった。だからこそ、コチラの劇場のようにマニュアル化されていないスタッフ手作りの温かい気配りが心地良く感じられるのだ。
街の裏通や住宅街にある映画館の看板は昔と変わらず存在しており、情報誌などに頼らず空いた時間にぶらりと入ってみる…ロビーには革張りのゆったりとしたソファが設置され、その日の新聞がテーブルに置かれている気配り。いつも清潔に清掃が行き届いたロビーは快適に上映開始までの待ち時間を過ごす事が出来る空間となっているのがウレシイ。最近は受動喫煙防止から館内は全て禁煙という劇場が増えている中、昔からの馴染みの常連客が多いコチラの劇場では、年輩の方が煙草をふかしながらおしゃべりに興じる姿は何とも微笑ましくホッとさせられる。 |
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また、一歩場内に入ると永い年月を経た劇場とは思えない程の手入れが行き届いたきれいな空間が広がっている。歴史ある風格とピカピカに磨き挙げられたフロアが、多くの来場者に心地良く映画を楽しんでもらいたいという劇場の気持ちが表れている。スクリーンとの距離が充分に保たれた最前列からでも観賞し易く、場内後方はスタジアム形式となっているため、前列の頭が邪魔になることが一切無い。「ウチの劇場は都内の劇場に比べても決してひけをとりませんよ」と自負されている通り快適な空間が存在している。 東京に比べて人口8万人弱の街であるため動員数のピークは公開して2週間で迎える。そのため上映サイクルも早くて3週間、平均して5週間と短い。だからこそ可能な限り面白い作品を上映していきたいと語る事業部長は最後に、このように締めくくってくれた。「映画は大きなスクリーンで観てこそ本来のスケール感や作り手の思いが伝わるものです。3館残っていた映画館も、とうとうウチ1館になってしまった分、銚子で映画を楽しみにしているお客様のためにもがんばらなくてはと思っています」。漁獲高の減少に伴い、漁業の方も以前と比べて漁師として生計を立てていた人々が減り始めたという街としても厳しい現実を迎えている中、映画を観て感動し、明日への活力になるような夢の空間をこれからも大切にしてもらいたいと取材を通じて感じた。(取材:2006年1月) 【座席】 304席 |