■国籍法改正問題の質問を総理ぶら(総理ぶら下がり取材)で出してほしいというご要望に応えようと、総理番記者としては努力しているのですが、きのうも質問できませんでした。すみません。首相はAPEC外遊中なので、次のチャンスは火曜日。
■いいわけになりますが、総理ぶらの質問は、好き勝手にできません。限られた時間になにを質問するかは、その月の幹事社(月ごとに各社が交替でうけもつ世話役みたいなもの)に「こういう質問したい」と申し込んで、みなの意見を聞きながら、質問の順番を調整するのです。ちなみに、「国籍法」や「対馬問題」は各社から「産経ネタ」とよばれ、つまり産経新聞(読者)しか興味をもっていないテーマとみられています。質問は、みんなが聞きたいものから優先順位がきまっていくので、産経しか質問しないネタは後に回ります。たとえば20日の昼ぶらでは、①郵政株売却凍結問題②道路財源一般化の1兆円地方配分問題③2次補正提出時期④消費税⑤国籍法、という順になります。で、時間の都合で③まで、聞けたわけです。
■20日の夜ぶらもがんばってみましたが、みんな聞きたいこといっぱいで、私も「総理」と声をかけたのですが、総理からは「こういうのは声が大きい人が勝つ、あなたはこの前(10月の幹事社月)質問したから」と逃げられてしまいました。まあ、APECに向けた意気込みとか元厚生次官ら殺傷事件についての質問が優先されるのは致し方ないでしょうか。
■総理に聞く機会にめぐまれないので、もうひとりの私の担当閣僚、小渕優子少子化担当相に「国籍法改正についてどう思うか」とこのあいだの閣議後会見で質問してみました。すると「議論のゆくえをみていかなければならないと思います。そういった懸念があることも承知していますので、そうしたところがなくなるよう、なくなるのかわかりませんが、しっかりつめていきたい」とのお答えでした。
■先日、議員会館の麻生太郎事務所にたちよったところ、国籍法改正反対のファックスが大量に届いていたので、多くの国民が国籍法問題に関心を寄せていることは、総理も認識されているかと思われます。ただ、衆院が通過し、今国会で与野党で成立に合意している法案をいまさら変えることはできないので、政府筋の人は、「付帯決議で対応するしかない」とのことでした。
■さて、国籍法改正のこの問題。実は政府もかなり微妙で難しい判断をせまられているのだと思います。反対、賛成というふうに白黒つけるのは、私自身も相当悩ましいところです。
■なにが悩ましいか。改正によって救われる子供は確かにいる。しかし、救われない子供も新たに出てくる、という点でしょうか。
■国籍法がどう変わるかということですが、要するに日本人男性が認知すれば、外国人女性の生んだ子供は誰でも日本国籍を取得できる、ということになります。
■今年6月4日に、フィリピン女性婚外子国籍訴訟で、外国人女性が日本人男性との間に生んだ婚外子(結婚せずに男女関係をもって生まれた子供)に日本国籍が与えられない現行の国籍法は、憲法に規定される法の下の平等に反し、違憲であるという最高裁判決がくだされました。
■現行法に違憲判決が下された場合、これはサクサク法改正をせねばなりません。現行の国籍法では、外国人女性が日本人男性との間にもうけた子に日本国籍を取得させる場合、①出生前に、父親(日本人男性)が「自分の子」と認知すること。②もし認知する前に子供が生まれた場合は、両親の婚姻関係と出生後認知の両方が日本国籍取得の必須の条件となることが定められています。しかし、この②の両親の婚姻条項が、違憲にあたるとして、改正案ではこの婚姻条項が削除され、父親の認知のみで日本国籍が与えられるようになります。
■しかし、父親の認知だけで日本国籍が取得できるなら、中には日本人男性などに違法に認知料を払って国籍を買おうとする輩もでてきましょう。日本の国籍は末端市場価格で200万~300万円くらいでしょうか。え?国籍って売買できるの、という方。できるそうです。そういう闇マーケットがありブローカーが存在するのは確かです。実は、命も臓器も子供も女性も売買されている。直接潜入取材したことはありませんが、そういう世界が私たちの知らぬところで広がっている、という情報は2段階くらい間接的に聞いています。
■で、うわさ話レベルでもうしわけないですが、伝え聞くところでは、日本の国籍は結構、人気だそうです。それは日本人に対する国際社会からの信用度が高い、ということでもあります。日本人はお人好しで騙しやすく、礼儀正しく、清潔。諸外国の入国審査で一番警戒されないのは日本パスポート所持者、観光客ならノービザで入国できる国も多い。(もっとも、その信用の高さもちょっと昔の話ですがね)。もう一つは、出稼ぎ場所としても魅力的な日本の国籍を子供に取得させることで、外国人の母親も合法的残留資格を得ることができる。
■で、今までは擬装国際結婚という形での国籍売買ビジネス、残留資格売買ビジネスが主流でしたが、これからは擬装認知という形の国籍売買ビジネスが増えるのではないか、というのが、今回の国籍法改正にともなう主な懸念なのです。
■擬装認知に対しては20万円以下の罰金、もしくは懲役1年以下、との罰則がありますが、しかし20万円程度の罰金ならあえて擬装認知をたくらむ人は減らない。実際、前エントリーのコメント欄でご紹介があったように、ドイツではホームレス男性に金を払って外国人女性が出産した子供を認知させ、国籍を取得する擬装認知が横行したことがあるとのこと。
■しかし、こういう懸念をはらみつつ、やはり日本人男性が、途上国女性との間に無責任にもうけた子供にも幸せになる権利を平等に与えてほしい、ということも、人として、女性として思うわけです。私は香港駐在時代はフィリピンが担当地域であったこともあり、日本人男性と婚外子をもうけたフィリピン女性も知っているし取材したこともありますが、フィリピン女性が日本人男性と子供をもうけて期待することはやはり、我が子が日本人の子供としての認知されることでした。それは、日本に出稼ぎに行きたいという下心もあるでしょうが、日本人は賢い、日本は文化的な国で、そういう国の子供になって、そういう国で教育をうけられれば子供も幸せではないか(本当はそうでもないかもしれませんが)と信じている部分もある。
■では、認知の条件にDNA鑑定をいれればよいではないか、科学的根拠で親子関係が証明できれば国籍を与えればいい、という意見もある。
■これは一理あるのですが、そうすると、日本人の家族観、家族法を揺るがせる可能性もあります。生みの親より育ての親、という言葉があるように、日本の家族は血統主義ではありません。血がつながっていなくても、本当の親子のように関係がはぐくまれている場合、当然、家族、親子とみなされます。相手が外国人だとしても、当事者がのぞめば別ですが、政府がDNAで親子関係を証明することを強要することは、へたをすると、プライバシーの侵害や法のもとの平等に反する違憲、と判断されることもあるかもしれません。
■血がつながっていなくとも、日本人男性が外国人女性と道ならぬ恋におち、せめてもの誠意として彼女の子(自分以外の男性が父親だとしても)を息子として認知し国籍を与えたい、ということであれば、それは、一夜の低俗な快楽の末、うっかりできた子供、あるいは女性の方が国籍ほしさに男性を誘惑して作った子供との間にあるDNAで結ばれた親子関係より濃いかもしれません。
■DNA鑑定を条件とすると、国籍ほしさに日本人男性と欲しくもない子供をつくる外国人女性が増える、そうすると望まれない子供、十分に愛情を注がれない子供が増えるという心配もでてきます。そういう子供が、すでに存在する人身売買マーケットに流される可能性も。そうでならなくても、愛情不足で、ぐれて不良になって犯罪に走る?
■私自身は日本がいい国だ、日本文化と日本語を愛し、日本人になりたい、と真に思っている人は日本人になって、日本をよりよい国にするために貢献してほしい。これからの日本がより国際化、グローバル化する過程で日本人の定義も変わってゆくしかないだろう、と思っています。日本人口が減少に転じているなか、そういった新日本人が社会・経済の新たな活力となる可能性もある。なにより、生まれた子供が不当な差別を受けたり、幸福になる権利を奪われたりしないような国であってほしい。
■しかし、こういった国籍法改正によって、擬装認知ビジネスが横行すれば、大人が自らの金儲け、欲望のために、出産と子供を利用するケースが増え、結果的に不幸な子供が増える、幸福になる権利を奪われる子供が増える、という心配もあるわけです。
■いずれにしろ、国籍法改正についてはもっと広く国民に問題を提起し、さまざまな角度から議論をおこなった上でするべきだったのですよね。せめて成立するまえに、擬装認知の有効な防止策や、一旦認知された国籍が擬装とわかったときの対応について、国際人権法や諸外国の国籍法などとも比較しながら、追加の法整備ができる可能性を開くための議論を深めてほしいものです。
(訂正)
■すみません、上記で誤りの表現がありました。血統主義という言葉づかいは一般に国籍法において、生地主義と対になる言葉で、日本の国籍法は父母両系血統主義です。線引きで訂正いたします。日本の家族観、家族法がすでに血統重視でないということいいたかったのです。残留孤児の血縁のない家族(連れ子)を家族と認め、日本に定住許可された例など、事実上の家族関係を重視する判断が主流になっています。そういうことを表現するのに言葉づかいを間違っていました。
by diplodocus
総理番のお仕事⑥国籍法のゆく…