■必ず来るという意識で備える
首都直下地震が発生すると、最悪のケースでは1万1000人が死亡し、85万棟が倒壊・焼失すると想定されている。被災者が街にあふれ、大混乱が2次災害につながる恐れもある。行政だけでは対応しきれないのが実情で、個人の備えが不可欠だ。被害軽減と混乱回避のために何ができるのか−。中央防災会議がまとめたシミュレーションと対策を紹介する。(蕎麦谷里志)
■イメージでチェックするトイレ不足率■ 首都直下地震なら「トイレ難民」82万人
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≪建物崩壊≫
首都直下地震は首都圏で起きるマグニチュード(M)7級の地震で、今後30年以内の発生確率は70%とされる。中央防災会議は18カ所の震源地を想定し、予想される被害を公表。最も被害が大きくなる東京湾北部の地震(M7・3、冬の夕方に発生)を中心に対策をまとめた。
≪小さな揺れが始まったと思ったら、次の瞬間、激しい揺れに立っていることもできなくなり、家具のほとんどが倒れる。揺れは20〜30秒続き、昭和55年以前にできた木造建築を中心に家屋が崩れ、一部では火災が発生する≫
地震で一番怖いのは建物の倒壊と火事。住宅の耐震・耐燃化、家具の固定などの対策が最優先課題だ。
しかし、経済的な負担が小さく比較的容易にできる家具の固定でも、実施率は約30%にとどまっており、まだ意識は低い。
火災は道幅が狭い住宅密集地域で拡大すると予想されるので、住民による自主防災が不可欠。耐震化や家具の固定の推進は、防災要員の確保にもつながる。
≪人、人、人≫
≪一斉に帰宅をめざす人で街中はごった返し、一部では満員電車並みの混雑となる。1人が倒れれば、将棋倒しにもなりかねない危険な状態だ。公衆トイレには長蛇の列ができ、何時間待っても利用できない≫
勤務先や学校で被災した人たちが一斉に帰宅を始めると、路上に人があふれて救急車両の通行の妨げにもなりかねない。混雑緩和のため、被災後に帰宅日時をずらすことがとても重要となる。そのためには、職場に食料などを置いておくことも必要だ。
過去の震災では、トイレを我慢するために水分を控えた人が血栓症を引き起こすなど深刻な問題も起きている。断水も想定し、家庭や職場に簡易トイレなどの備えがあれば安心だろう。
≪ライフライン≫
≪携帯電話は通じず、家族の安否すら確認できない。水道やガス、電気などのライフラインもストップする。帰宅をあきらめて避難所へ向かったが、満杯で入れない≫
家族の安否確認には、携帯メールやインターネットの掲示板など、複数の手段を事前に家族間で話し合っておくことが望ましい。連絡できそうな遠方の親戚(しんせき)を決めておくことも有効だ。
避難所不足の解消では、ホテルなどの民間施設の活用、近隣自治体と相互受け入れなど、自治体レベルで事前に取り決めを交わしておく必要がある。
シミュレーションからは震災で直面する悲惨な状況が浮かび上がったが、高層マンションの火災や鉄道事故などの被害は具体的に想定されていない。内閣府の池内幸司参事官(地震・火山対策担当)は「予想外のことも起こるでしょう。阪神大震災で高速道路が落下するなんて考えられなかったことですから。日本で暮らしている以上、地震はいつか必ず来るという意識で備える必要がある」と話している。
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