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2008年11月25日

◎新幹線沿線都市会議 広域交流圏づくりの先導役に

 北陸新幹線で新たにつながる金沢、高岡、富山、上越、長野、高崎の六市が発足させた 沿線都市観光推進会議に期待したいのは、二〇一四年度末の金沢開業へ向けた広域交流圏づくりの先導役である。六市は各県の玄関口としての機能をもち、金沢開業の効果を周辺地域へ波及させる役割も担っている。それぞれの拠点都市が個性を競いながら沿線全体の魅力を高めたい。

 新幹線のイメージというのは沿線都市の個性に左右され、沿線に魅力的な都市が多いほ ど全体の旅客需要が高まることは言うまでもない。まだ一本のレールで結ばれていないため、地域間のつながりは実感しにくいだろうが、金沢開業までの六年間はあっという間であり、何より大事なのは周到な準備である。

 今から「沿線意識」を高めていけば、開業と同時に足並みをそろえたさまざまな手が打 てる。沿線軸を強くすることによって交流エリアの面的な広がり、さらには観光のみならず、ビジネス面での交流拡大も期待できるだろう。

 沿線都市会議は各市の持ち回りで年一回、観光サミットを開催する。金沢市で行われた 第一回サミットでは六市長が出席し、金沢開業への期待や課題などが話し合われた。各市とも地域資源が豊富であり、それらを組み合わせることで多様な周遊コース、滞在プランなどが考えられる。具体化させるには、まず沿線都市がお互いのことをよく知る必要がある。

 沿線都市ではたとえば金沢、高岡、上越市が年一回の寺町サミットでも連携している。 「寺町の旅」のようにテーマの共通性を追求したり、あるいは異なる素材で新たな物語をつくってもいい。沿線都市会議には実務担当者による共同研究会も設けられる。今のうちから具体的な戦略を練ってほしい。

 観光サミットでは長野市長から東京との時間短縮によるストロー現象も報告された。長 野開業は冬季五輪開催という特別な要因があったが、新幹線効果を最大限に引き出す準備がどこまでできていたのか多くの教訓を含んでいる。北陸地域にとっては学ぶべき貴重な経験である。

◎次官襲撃犯出頭 政治テロとは無縁なのか

 こんなばかげた理由が殺人の動機になるとは思えない。歴代の厚生事務次官を狙った連 続殺傷事件で、警視庁に出頭した男が犯行を認め、動機について「以前飼っていたペットを保健所に捕らえられて殺されたことに腹が立っていた」と供述した。

 これからの調べで、謎の多くは明らかになるのかもしれないが、過去の例を見ると、異 常な犯罪を犯した人の心の闇が、私たち一般人に理解できる形で解明されるケースはまれである。犯人の心のヒダを読み取るのは専門家でも難しいのだろう。

 現時点で、最重要の捜査ポイントは、今回の事件が本当に政治的テロとは無縁だったの か、小泉毅容疑者の背後関係を徹底的に調べることである。暴力団抗争で、組織の意を受けて自首してくる組員のようなケースではないと確信できるまで、念には念を入れて捜査してほしい。

 事務次官の自宅住所を調べ上げ、宅配便の配達を装う周到な計画性、何のためらいもな く家族まで巻き込む冷酷さ。捜査当局は当初、厚生労働行政に深い恨みを持つ者の犯行と見ていた。年金問題を含め、厚生労働行政にはさまざまな批判が渦巻いている時期だから、国民の多くもそう思っていたのではないだろうか。

 ところが、出頭した小泉容疑者が語った動機は、だれもが首をひねる内容だった。ペッ トを殺されたのは三十年以上も昔の、小学生のころの話であり、郷里の山口県の保健所と、被害者の元事務次官とその家族には何の因果関係もない。動機とも言えないような動機で、元次官に強い殺意を抱いた理由が分からない。

 証拠品をわざわざ車に積んで、警視庁に乗り付けた行為と、動機らしくない動機を重ね 合わせると、今年六月に東京・秋葉原で起きた無差別殺傷事件との類似性も見えてくる。社会から孤立したまま、行き場のない怒りやイライラをため込み、その恨みが途方もない方向へはじけてしまうケースである。ゆがんだ自己顕示欲と背中合わせの犯行であり、一種の劇場型犯罪と言えるのかもしれない。


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