富士北麓(ほくろく)地域の観光協会などで構成する富士五湖観光連盟(会長・堀内光一郎富士急行社長)は21日の会議で、富士山観光のメーンルートとなっている5合目までの有料道路「富士スバルライン」を鉄道に取り換える「富士登山鉄道構想」構想を明らかにした。今後、実現のための協議会設置に向け、行政などへの働きかけを強める。【沢田勇、小林悠太】
新たな森林伐採はせず、スバルライン上に鉄道を敷く。車から鉄道に完全に移行する大胆な構想だ。富士急河口湖駅から5合目(標高約2300メートル)までの全長約30キロの間、景勝地や観光施設ごとに中間駅を6カ所ほど建設する。事業費は600億~800億円と試算されている。
堀内会長は(1)排ガスによる自然破壊を防げる(2)季節を選ばず5合目まで行くことができる--などのメリットを挙げ「圧倒的に環境への負荷が小さくなる」と語った。
同連盟は、郡内選出の県議8人が7日に「富士山の新交通システム等議員検討会」(武川勉会長)を発足させたのを受け、専門家に依頼して、より具体的な登山鉄道構想を提示した。
21日の会議に参加した各観光協会の会長らから異論は出ず、今後、構想実現に向けた協議会を設立するため、周辺自治体や県議らに働きかけていくことを意見集約した。
富士山の世界文化遺産登録を目指すNPO「富士山を世界遺産にする国民会議」の清水康啓事務局長代理は「環境には良いと思うが景観上どうなるのか心配。具体化するまで予測がつかないため、関心を持って見守りたい」と話している。
スバルラインは、自然保護と渋滞緩和を目的に94年から夏山シーズン中のマイカー規制が行われている。また、今シーズン(7月1日~8月31日)の山梨県側からの富士山登山者数は24万7066人と、統計を取り始めた81年以来、過去最多となった。
富士山の交通を巡っては、過去にもさまざまな構想があった。
富士急行によると、1960年代、5合目と山頂の間にトンネルを掘ってケーブルカーで結ぶ計画があった。富士急は63年、旧運輸省などに許可を申請したが、74年には自然保護を考慮して取り下げ、さすがに「ハイヒールで日帰り富士登山」は実現しなかった。
県も93年度から、富士スバルラインにクリーンエネルギーを利用した新交通システムや鉄道、ケーブルカーの導入を検討したが、00年に「自然環境や景観に影響を及ぼす」などとして断念した。
「時刻表2万キロ」など鉄道紀行で知られる作家の故・宮脇俊三さんは、93年に出版した「夢の山岳鉄道」(日本交通公社)で、スバルラインに代えて5合目までの単線鉄道「富士山鉄道・五合目線」の敷設を提案。軌道の大半をスバルラインの路面を借用して敷設し、単線にすることで道路の半分は自然に復元することを提唱している。【沢田勇】
毎日新聞 2008年11月22日 地方版