追記
コメントで質問の多かった次の3点について追記しておきます。
■どうして出航したのか?
僕はシーカヤックでの出航前は気象庁発表の「天気図」「24時間予想天気図」「海上気象予報」にてその海域の風、天気、視程、波をウォッチしています。カヤッカーだけでなく、サーファーや釣り人にとってもこれは常識だと思っています。
これに加え、第三管区の「海洋速報」と海上保安庁海洋情報部の「潮汐情報」を随時参照します。そして今回は相模湾の旅だったので、同じく海洋情報部が公開している「海洋短波レーダによる海流データ」の中から「相模湾の海流分布図」と「伊豆諸島周辺の海流」(3時間ごとの詳細なデータが公開されています)を参照していました。基本的にこの3点を最も大きな出航の判断材料にします。
海図は日本水路協会の「M503」を使い、同時に陸の地形を参照できるようにしていました。シーカヤックはヨットと違い、マリーナや漁港ではなくビーチに上陸するのが(周囲に迷惑をかけないし、上陸が安全な)ベストな方法です。そのために海水浴場やゴロタ浜の位置が判るものを使うのです。
これと併用して手元のGPSには「Japan Blue Chart・日本航海参考図」と「Japan TOPO 10m・日本地形図10m等高線仕様」をインストールし、海と陸の状況を漕ぎながら常時ウォッチしていました。またサポートの車はカーナビとワンセグテレビを備え、上陸や合流点探し、定時の情報集め(天気予報)ができるよう準備してあります。これらが状況判断のベースになりました。
今回のツーリングでも真鶴半島を回り込む時には北東の風がなかなか落ちませんでした。数時間なら止みそうな場合も何回かあったのですが、なにしろソロだし、犬連れなので毎回大事をとり、悪い予報が出ている限りは、一切海には出ませんでした。とにかくプロの予報には充分に耳を傾ける。ビビるぐらい慎重に進む。それが僕らの基本です。そのためここでは一週間も停滞をしました。しかしシーカヤックの旅ではよくあることです。
ただし野宿の旅の場合は途中で十分な情報が確保できないこともあります。前日の川奈のビバーク地ではインターネット環境がなく、前夜のラジオの天気予報とテレビの天気予報、ケータイで見る天気図の情報が判断材料になりました。現地では北東は32時間前から止んでおり、翌日も昼間は晴れ、午後遅くになって西日本から徐々に崩れ始める。翌々日は全国的に雨となり寒さが増す、という予報でした。
翌朝7時に観察すると、東伊豆は薄曇りで無風でした。海面も穏やかで、山の上の木々を見てもまったく動いていません。僕は「予定通り出航し、様子を見ながら南下して行こう」という決定をしました。
出航した川奈港は北北東に向かって開いた港です。通常この時期の風は北東です。その風上に向かった湾内が非常に穏やかで、小高い位置にある小室山や予望島の木々もまったく動いていなかったことが安心感を与えました。また午前8時の海流図を見てもらえばわかる通り、この時点で川奈周辺は、海流の動きや、風の影響による波はまったくありませんでした。出航を迷う材料はこの時の僕にはなかったのです。
(のちにこれが間違いだということが判明しました)
■どうしてエスケープ地を設定しなかったのか?
していました。この日は天気予報で天気が下り坂にあるということで、移動予定距離を短く設定しました。そのため片瀬海岸が目的地です。また、このあたりは断崖絶壁が続いてエスケープゾーンが極端に少ない、見るからに怖い場所です。そのために僕と仲間のヤマダマコト(カメラマンで陸上を車で移動)は、1富戸港、2八幡野港、3赤沢、4北川をエスケープ予定地に設定し、まずはマコトが先行して現地の様子とカヤックが安全に上陸できるかどうかを確認することにしました。連絡方法は携帯電話を使いました。(無線機も持っていましたが使いませんでした)
8時40分過ぎに出航。川奈崎を回り込んで外洋に出ると川奈の沿岸は小さな三角波がザワザワしていました。断崖絶壁の返し波と沖からの波がぶつかって非常にイヤな感じです。かなり緊張感の高いカヤッキングでした。しかし天気はよく、川奈カントリークラブの木々やススキもまったく動いていません。「波はいやな感じだが、風は大丈夫だな」と思い、どんどん漕いで行きました。航行速度は時速5〜6km。移動平均は5.5kmほどと、いたって順調です。
のちにこの間のことをマコトは報告書に【この間、私は富戸〜八幡野〜赤川〜北川と上陸できるか、写真が撮れるか先行していた。10時すぎに訪れた八幡野では少し風が吹いていたものの、海はまだそれほど深刻な状況ではなかった】と記しています。
その後10時40頃(?)、僕は富戸港の沖合を回きりました。そこで富戸に入ろうか、それともこのまま城ガ崎海岸を一気に通過し、伊豆高原までいこうか、一瞬判断に迷いました。これまでの巡航平均から割り出せば、あと2時間ほどで片瀬へ到着する計算でした。「おっかないけど、思ったより順調だ」というのが僕の正直な印象。まだ進めるな、と思いました。小さな波が続いていたのでパドルから手が離しにくく(離したくなく)、僕はマコトに電話でこの先の様子を聞けないまま、富戸港の沖合いを通過し、そして吸い込まれるように、城ガ崎灯台下へと入って行ったのです。ただしこの時点では南下する欲はあまりなく「岬回りができるかどうか、海と波の様子を見よう」という心づもりでした。ところが、その海域に入るともうUターンできなかった。そして南西風が吹き始めた……。これが風が吹き始める前の状況です。
■シーカヤック規制がされるんじゃないか?
僕が判断することではありませんが、この件が原因で規制が行われることはないと思います。
救助後の事情聴取で僕は下田保安部・伊東MPSの方にかなりしっかり話を聞かれました。12年間のシーカヤック歴のあいだにどんな海域を、どれぐらい漕いだ経験があるのか、海図や通信やレスキューの装備はどうか、今日の航程と状況判断はどう行ったのか、航行不能になった原因、救助されるまでの様子は……。係官が偶然シーカヤッカーだったということもあり、かなり詳細に、専門的に話をしました。その結果、お灸は据えられたものの、転覆や漂流ではなく、単純な救助要請事故だという判断をされたようです(僕の個人的印象です)
事故後僕は一度伊東МPSにお礼に伺いましたが、この時も好意的に接していただきました。今後の規制や行政上のペナルティについても一切言及はありませんでした。
追記は以上です。
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