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【社説】

連続殺傷 多すぎる謎と不明点

2008年11月24日

 「元次官を殺した」という男が警視庁に出頭し、血の付いたナイフなどが押収された。警察当局は連続殺傷事件に関与した疑いがあるとみているが、動機を含めて謎の部分や不明な点が多すぎる。

 唐突の出頭だった。さいたま市北区の無職小泉毅容疑者(46)が「元次官を殺した」とレンタカーで警視庁本庁舎に乗りつけた。車内から血の付いたナイフや手袋などが見つかり、銃刀法違反の疑いで逮捕された。

 車内にはスニーカーや段ボール箱もあった。いずれもさいたま市と東京都中野区で元厚生次官夫妻らが相次いで殺傷された事件との共通点をうかがわせるものだ。

 容疑者は住民票を持っていた。出頭前に実家の父親に「手紙を出した」と電話をかけ、同じアパートの住人に「いらないから」とアダルトDVDを渡したという。

 意を決して出頭したようであり、捜査当局は男が両事件に関与した疑いがあるとみている。血液鑑定や犯人しか知り得ない事実の裏付けが捜査の焦点となろう。

 この男が本当に両元次官宅を襲ったのか。物証が乏しいだけに慎重な捜査が要求されよう。男と両事件を結び付けているのは「殺した」という供述だからだ。

 伝えられる供述からは不可解な点が多すぎる。まず、動機だ。容疑者は「昔、保健所にペットを殺され、腹が立った」と話しているという。個人的な恨みを述べているようだが、連続殺傷事件の動機としては、とても信じがたい。

 中野区の事件では犯人は室内に侵入し、元次官を捜している。そんな恨みの矛先がこの元次官二人にあったとしたら理解に苦しむ。元次官の妻二人を執拗(しつよう)に刺した強い殺意もこの動機からなのか。

 単独犯かどうか、現場で目撃された車と男が借りていた車の関係など、解明すべきことは多い。

 事件が男の供述どおりだったとしたら、犯行は政治信条からのテロというより、見境ない暴力の爆発だ。今年、東京・秋葉原や茨城・土浦で起きた無差別殺傷事件と類似点があるようにもみえる。

 見知らぬ他人を傷つけることをためらわない事件が増え、インターネット上では犯人を支持したり、被害者を中傷する書き込みが飛び交う。暴力を容認する風潮が広がっている。

 就職難や賃金格差といった問題とも無関係ではないかもしれない。閉塞(へいそく)した社会を改善していかなければ、不気味な凶悪事件は根絶できないのではないか。

 

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