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2008年11月24日

◎金大がん研新時代 腎不全治療にも画期的な一歩

 二年前、金大がん研究所につくられた「分子標的がん医療研究開発センター」の松本邦 夫教授が、血管新生や臓器再生を促すHGF(肝細胞増殖因子)を急性腎不全の根本的な治療に役立てる動物実験に成功し、米国の腎臓病研究所などと協力して人体での安全性と効果を検証することになった。

 腎不全治療にとって画期的な一歩である。五年以内に新薬を世に送り出したいとしてい る。

 がん研究の進歩で、最近はがんができるメカニズムが細胞内の分子レベルで分かってき た。HGFは肝臓の再生因子として約二十年前に見つかったタンパク質だが、がんを大きくする分子でもあり、その機能を抑えれば、がんを小さくできる。

 すなわち、がんの治療につながるわけだし、反対にその機能を利用すれば、急性腎不全 の治療にも役立つのである。大まかに言えば、これが松本教授の研究である。

 松本教授は金大理学部の出身で、大阪大大学院に進み、肝臓を中心にタンパク質の研究 に取り組んできた。母校の金大のがん研が「分子標的薬剤開発センター」を改組して分子標的がん医療研究所を発足させたとき、同センターの教授として招かれた。

 もちろん、松本教授は分子レベルでのがん研究も進めており、昨年は北國がん基金の研 究助成を贈呈されている。その研究が腎不全にも応用できることを動物実験で突き止めたわけである。がん研究が新しい広がりを持つ時代を迎え、金大がん研が独自の成果を挙げたとも言える。

 慢性腎不全にも応用できるとの見通しを立てており、腎不全から人工透析へ移行する患 者にとって福音であるばかりか、人工透析で膨らむ医療費の抑制にも貢献することになるだろう。

 日本の対がん政策は第三次の段階に入っている。第一次はがん発生のメカニズムが分か らず、手当たり次第に効果的なものを探したが、メカニズムが分かった第三次では研究成果の応用が主になっている。その上、研究の応用に広がりも出てきた。金大がん研の新時代でもある。

◎「パロ」が北欧進出 ギネスに続く大きな勲章

 産業技術総合研究所の柴田崇徳主任研究員=南砺市出身=が開発し、同市内のベンチャ ー企業が製造しているアザラシ型ロボット「パロ」の高い癒やし効果が評価され、約一千体がデンマークの高齢者向け施設に導入されることになった。国単位でこれだけまとまった数を導入するのは初めてという。しかも、相手は北欧の福祉先進国であり、ギネスブック認定に続く大きな勲章と言ってよい。

 デンマークは、二〇一一年までに国内のほぼすべての高齢者向け施設にパロを配置する 計画を立てている。来月には米国での販売も開始される予定となっており、今後の本格的な世界展開に大いに期待したい。ギネス級の癒やし効果が世界を席巻すれば、「生まれ故郷」である南砺市や富山県の知名度も高まり、北陸の高度な「ものづくり力」の発信にもつながるだろう。

 ペットロボットが持つ癒やし効果を健康増進のために活用する療法は「ロボットセラピ ー」と呼ばれる。ふわふわした体とつぶらなひとみ、多彩なしぐさで、ロボット特有の無機質な印象とはまったく無縁のパロは、この分野では先駆者とも言うべき存在である。動物を使う「アニマルセラピー」と違って衛生面の問題が生じず、世話の大変さからも解放されるため、近年、注目度が高まっているという。

 実際、特別養護老人ホームで一体、デイサービス施設では計八体のパロが既に活躍して いる南砺市には、国外からも視察や取材が相次いでいる。いまやふるさとの自慢の種の一つとなっているパロの世界への進出を応援する意味でも、足元の北陸、とりわけ富山県内でさらに活用してもらいたいところである。

 富山県は、ベンチャー企業の販路開拓を支援する「トライアル発注制度」でパロを認定 し、これまでに五体を購入して福祉施設に配置するなどしているが、ほかにも普及を後押しするためにできることはあろう。県を挙げてロボットセラピーの先進地を目指してみても面白いのではないか。


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