よく行く本屋に、大阪の特異性をテーマにした“大阪本”が並んでいる。最初のうちは新しい本を見つけるたびに手に取っていたが、「赤信号は注意して渡る」といったあまりにもステレオタイプ化された内容に今では立ち読みするのもバカバカしくなった。
だから、世界的に人気のあるボードゲーム「モノポリー」の大阪版が発売されると聞いたときも、よくある大阪モノと決めつけていた。だが、企画した植田幹浩さん(41)らの話を聞くうち、そんな見方が間違っていたことが分かった。
モノポリーは、すごろくのようにコマを進めながら不動産を買い占めていくという米国生まれのゲームだ。その元日本チャンピオンである植田さんは「大阪でも愛好家が増えれば」と考えて企画を始めたが、デザイナーの波田野裕典さん(32)と話しているうちに方向が変わったという。
「大阪って、どんな町やろ」「イメージは道頓堀の看板か」「それだけやない。製造業が支えてきた町と違うか」
こうして「大阪を元気に!」をキャッチフレーズに完成した大阪版は、通常なら不動産の名前がつけられるマスに在阪企業や大阪市の中小・ベンチャー企業支援拠点、大阪産業創造館が登場しているのが特徴だ。
エアコンのダイキン工業、菓子の江崎グリコ、化粧品のマンダム、理美容機器のタカラベルモント、文具のシード…。業界で最大手となった今も大阪に本社を置いている企業や、規模は小さくてもキラリと光る技術を持つ企業が並ぶ。これらの企業は大阪版のスポンサーになっている。
ボードの中央に描かれた水都・大阪のイラスト。地上に大阪城や通天閣といった名所が並ぶのに、川面に映っているのは企業の本社というところに2人のメッセージが込められている。
実は2人ともサラリーマンからの転身組だ。植田さんは4年前にコンピューター会社を辞め、大阪・ミナミに旅をテーマにしたカフェをオープンさせた。その時に支援してくれたのが産業創造館だった。自動車メーカーのデザイナーだった波田野さんも「顧客の顔が見える仕事をしたい」と独立し、3年前にデザイン会社をつくった。
「東京の方が企業の数は多いが、地域と支え合っているという感じはない。こんなモノポリーは東京ではできません」と植田さんらは言う。
不動産を独占(モノポリー)したプレーヤーが勝者となるモノポリーは、ある意味で強欲なウォール街のルールを体現したゲームともいえる。その金融資本主義が崩壊した今、もの作りの復権が叫ばれている。大阪版モノポリーは、そんな時代の流れを暗示しているといえなくもない。(経済部長 竹田徹)
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大阪版は12月25日に発売。4500円。