力士は華やかさも大事な売り物。いつも心に錦を飾っていなければならない。
出島や、雅山らが所属する武蔵川部屋は、北九州市に近い宗像市に宿舎を構えており、福岡市内からは、およそ6000円のタクシー代がかかる。毎日のことで、しかも往復だから、いくら天下の幕内力士の給料が130万円あっても大きな負担になる。
3年前の九州場所。平幕でくすぶっていた雅山はこのタクシー代をケチり、バスで1時間半もかけて場所入りした。たまたま同じバスに乗り合わせたお客はチョンマゲ姿の元大関が乗り込んできたのを見てびっくり。支度部屋に到着した雅山はこう言ってため息をついた。
「みんなにジロジロ見られたり、指をさされたり、もうたいへん。元大関のくせして、オレは何を小さくまとまっているんだろう、このままではダメになる、と痛感しました。もうバス通勤はやめます」
この一件で奮起した雅山はこの場所、魁皇、栃東、千代大海の3大関を破って10勝し、敢闘賞を受賞している。勝負師は意地やプライド、ときには、見えやハッタリも必要なのだ。
今場所、雅山が久しぶりに好調だ。8日目に初黒星を喫したが、尻あがりに調子を上げてきた白鵬とともに優勝争いの先頭を突っ走り、師匠の武蔵川理事長(元横綱三重ノ海)は「好成績の特別な理由は思い当たらないけど、不利な態勢になってもよく前に出ようとしているね」と目を細くする。
この日も、元気な黒海を相手に、その粘りをあますところなく発揮。取り直しの末の長い攻防戦を制し、幕内の勝ち越し第一号になった。
「今場所は(入籍したことが明らかになった7歳年下の)嫁さんのことが出たので、負け越すわけにはいかなかった。実は今日、見に来ていたんですよ。これからも横綱(白鵬)についていって、場所を盛り上げたいですね」
意外な勝因を明かした雅山。新妻にどんな錦を見せられるか。
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