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社説:首相発言の迷走 この「軽さ」は目に余る
「綸言(りんげん)汗のごとし」という。君主が1度口にした言葉は、出た汗のように2度と引っ込めることはできない、という意味である。為政者が言葉を軽々しく使うと国が乱れるのは、今も昔も同じだ。
わざわざ中国の格言を例示しなければならないほど、麻生太郎首相の最近の発言は問題が多過ぎる。1度言ったことをすぐ撤回したり、失言を指摘されて謝罪したりと、とにかく迷走しているのである。
これでは朝令暮改もいいところではないか。首相発言の「軽さ」は、言ってみれば思考の軽さをも意味するだけに、深刻と言っていい。最高指導者としての資質を疑わざるを得ない。
麻生首相の迷走発言は、ざっと次のようなものだ。道路特定財源の一般財源化に伴う1兆円の地方配分について「自由に使える地方交付税に」と明言しながら、自民党道路族議員らが反発すると、翌日には「交付税でなくても構わない」とあっさり軌道修正してしまう。
日本郵政グループ各社の株式売却を「凍結した方がいい」とした郵政民営化計画の見直し発言も、翌日には「安い時に何で売るのという話をしただけ」と後退。「小泉改革の否定」の批判に押された形だ。
そして、「医師は社会常識がかなり欠落している人が多い」という失言だ。日本医師会の抗議を受けて発言を撤回、陳謝したとはいえ、それで済む単純な話ではない。自ら病院を経営した経験を踏まえてのことらしいが、昨今の厳しい医療現場にどれほど目を向けているのか疑念を抱いてしまう。
なぜ、こんなに迷走するのか。その理由として3点を指摘したい。
第1に、政府・与党内の調整が不十分のまま、麻生首相が発言する傾向が強いことだ。生煮えの政策をトップダウンで出すものだから当然、反発を招く。重要な判断を市区町村に丸投げする迷走ぶりをみせた定額給付金と同じ構図である。
第2は政府・与党内を取りまとめる調整役がいない点だ。だから首相の意向は独り歩きしてしまう。第3は、何だかんだ言っても、結局は国民生活に十分に目配りしていないことである。医師に対する失言からも、その傾向がうかがえる。
こうなれば、求心力の低下は避けられそうにない。追加経済対策を実施するための本年度第2次補正予算案と関連法案の今国会提出見送りを麻生首相が決めたことに対し、自民党中堅らが異を唱える行動に出たのも、一つの兆候だろう。
第1、閣僚から「首相は発言を慎重に」と苦言が相次ぐこと自体、情けない話である。
麻生政権が発足して、あす24日で2カ月。政権運営は厳しさを増すばかりだが、これも自らまいた種なのだ。もう一つ迷走発言が飛び出せば、致命傷になりかねない。