「己が木の下に捨てらる榠〓(かりん)の実=福田甲子雄」。カリンは秋に黄色く熟れるが、果実は堅く生食には向かない。そのまま打ち捨てられることが多いのだろう。
この句からは、せっかく実ったのに役に立たない悔しさが感じられる。わが身に置き換え、本当の良さが分かってもらえないのなら仕方ないといった達観や、いつか分からせてやるという意地もうかがえる。
カリンは優れた点が多い。本紙連載「片桐義子の花ごよみ」には「黄熟したカリンの果実の香りが部屋中に満ちると、寂しさが癒やされ、ゆったりとした気分になれました」とあった。いらいらした時など、香りをかぐと確かに気持ちがなごんでくる。
ジャムや果実酒にしてもよく、材は光沢があって床柱などに利用されるとも書いていた。果実酒といえば梅酒が定番のようになっているが、カリン酒も捨てがたい。おすすめの手作り酒だ。
今年もフランスからワインの新酒「ボジョレ・ヌーボー」が届き、販売が始まった。一時のブームは落ち着いたといわれるが、自然の恵みを実感できる季節の便りである。出来は上々とか。ファンはうれしかろう。
秋の深まりとともに、酒のうまさが身に染みる。好みの酒をにぎやかに、しみじみと。ただし、飲酒運転は絶対にやめ、飲んだら乗るなである。
(注)〓は木へんに虚の下部が且