後を絶たない振り込め詐欺を食い止めるため、全国銀行協会(全銀協)は警察庁と連携して、新たな対策に乗り出す。犯罪に使われて凍結した銀行口座の名義人情報を他の銀行にも提供し、同一名義の全口座を凍結する。口座情報を各銀行間で共有し、統一的な予防措置を講じるのは初めてだ。深刻な社会問題になっている振り込め詐欺対策として、大きく踏み込んだものといえよう。来年一月から実施する。
これまでも銀行は警察などから通報があると、犯罪に使われた口座を凍結していた。今回の対策では、この凍結口座の名義人情報を警察庁に提供する。警察庁は名義人リストを作成し、全銀協にリストを提供して、捜査協力を要請する。全銀協からの情報で各銀行が同一名義の全口座を凍結する仕組みだ。
警察庁によると、振り込め詐欺は二〇〇七年に全国で約一万七千九百件発生した。被害総額は約二百五十一億円に上った。今年も一―九月までで約一万六千九百件、約二百三十五億円と昨年以上のハイペースだ。このため、警察庁は十月を「撲滅月間」に指定し、現金自動預払機(ATM)を中心に警戒に当たり、被害に遭わないよう呼び掛けた。
それでも十月の被害総額は約十五億七千万円(千二百九十七件)に達した。ピークだった今年三―六月の平均より47%減とほぼ半減したものの、被害額の大きさには驚くばかりだ。
振り込め詐欺では、現金の振込先として指定された口座の名義人が、他の複数の銀行で口座を開設し、別の詐欺事件の振込先になっているケースが多いという。背景には、詐欺に使う銀行口座を調達する側と、小遣い銭欲しさなどで自分の口座を売る側、両方の存在がある。
今後、第三者に口座を譲り渡して事件に使われると、同一名義の全口座が凍結され、日ごろ公共料金やクレジットカードなどの決済用として使用している別の「生活口座」なども入出金ができなくなる。新規の口座開設もできない。安易な口座の売買にブレーキがかかり、詐欺の抑止につながるに違いない。
振り込め詐欺は、親族を装って大金を振り込ませる「オレオレ詐欺」をはじめ、税金還付や融資保証を持ちかけて現金をだまし取るなど、手口もさまざまで一段と巧妙化している。もはや銀行ごとの個別の対応にも限界があるだろう。今回の全口座凍結のように、情報を共有して一丸で対処していくことが必要だ。業界を挙げた取り組みで犯罪根絶へ実を上げてもらいたい。
ペルーで開かれていたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の閣僚会議が閉幕した。採択された共同声明では、金融危機に伴う保護主義台頭への警戒感を強め、世界貿易機関(WTO)新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)の打開に向け、緊急に交渉を前進させるために積極的に関与する考えを明確にしたのが大きな特徴だ。
これを受け、二十二、二十三日に開催される首脳会議でも、反保護主義への協調対応で強い意思を示すとみられる。
閣僚会議の共同声明には、金融危機の影響で高成長を維持してきた域内経済が大幅に落ち込む懸念を表明し、実体経済のてこ入れや投資・消費拡大のために必要なすべての措置の実施なども明記された。
実体経済への全力対応姿勢を打ち出すのは当然のことだろうが、ドーハ・ラウンドへの積極関与は急浮上したテーマである。きっかけは先日、ワシントンで開催された日米欧と新興国の計二十カ国・地域による緊急首脳会合(金融サミット)で、ラウンド交渉の促進がうたわれたことにある。
金融危機を受け、各国が輸入制限などで自国の産業を保護するような傾向が強まれば、貿易が停滞し世界経済が縮小に向かう恐れがある。ラウンド合意によって保護主義の台頭を阻止し、経済活性化をもたらす貿易自由化を進めることが、金融危機克服につながるというシナリオである。金融危機を逆手に取った戦略といえよう。
だが、七月に決裂したラウンド交渉を打開するのは容易なことではない。各国の利害が複雑に絡み合うからだ。APEC首脳会議ではラウンド合意への意気込みを示した上で、各国の国内調整など具体的な行動を早急に起こす必要がある。
(2008年11月22日掲載)