今日発売の週刊新潮11月27日号で、「失楽園」などで知られる作家の渡辺淳一が田母神論文についてものすごいコラムを書いていた。あまりにケッサクだったので紹介したい。
本来なら私が問題の箇所を抜粋して紹介するところだが、恣意的に抜粋してコラムに込められた意味が損なわれるとアレなので、全文引用することにする。
あとの祭り 渡辺淳一
なぜ田母神論文が生まれたか
このところ、田母神前空幕長の話題が新聞やテレビで大きく取り上げられている。
この男が発表した論文。たしかに狂って的外れだが、それを取り上げるマスコミの意見も、同様に少し的を外れているように思うのだが。
知らないだけ
日本は朝鮮半島や中国大陸に相手国の了承を得ないで、一方的に軍を進めたことはない。我が国は蒋介石により、日中戦争に引きずり込まれた。日本が侵略国家だというなら、当時の列強で侵略国家でなかったのはどこかと問いたい。アジアの多くの国が大東亜戦争を肯定的に評価しているのに、日本が侵略国家だというのは濡れ衣である。
以上が田母神論文の要旨だが、これが誤りであることは明白である。
事実、一九九五年に発表された村山談話で、昭和期の戦争について、日本が国策を誤ったこと、植民地支配と侵略により、アジア諸国の人々に損害と苦痛を与えたことを明確に認めている。
だが田母神氏は、これは誤りだという。日本はアジア諸国、朝鮮も中国も侵したことはなく、侵略は濡れ衣だという。
なぜ空幕長の要職にいた男が、こんな馬鹿げたことをいうのか。
理由は簡単である。日本の過去の事実をほとんど知らされず、体験もしていないからである。
非道の数々
日本が戦争に敗れたとき、わたしは小学六年生であった。
当時、わたしは札幌に住んでいたが、その前、小学校低学年のときは北海道でもっとも大きな炭坑があった砂川に住んでいた。
ここで、私は信じられない、恐ろしい状景を目撃した。
まず砂川の市街を外れた丘の下、山峡を流れる川のほとりに炭鉱労働者の飯場があった。たまたま親戚がその丘の上で新聞販売店をやっていたので、ときどき遊びに行ったが、「下の川べりに行ってはいけない」と厳しくいわれた。
そこには、朝鮮人の飯場があって、腹をへらした労働者が「アイゴーアイゴー」といって泣き、ときどき殴られている、ときいていた。
またあるとき、表通りが騒がしいので出てみると、裸同然の朝鮮人労働者が、棒に両手と両足を縄で吊されたまま運ばれていた。大人たちの噂では、日本人の棒頭に逆らって制裁を受けたのだといっていた。
そしてある冬の日、わたしの家の屋根の雪下ろしにきた朝鮮人に、母があたたかいおにぎりを渡すと、涙を流して喜んでいた。
彼らはなぜ日本にきて、このような過酷な労働にたずさわっていたのか。理由はただ一つ、日本軍に一方的に捕らえられ、強制的に連行されたからである。
子供の世界でも、朝鮮人はすぐ泣くといって馬鹿にしていたし、中国人は「チャンコロ」と呼んでいた。
この傾向は戦後も続き、在日韓国人は公務員や一流企業に勤めることができなかった。
たしかに、欧米諸国もアジアを植民地化したが、日本は朝鮮人すべてに日本語を強要し、名前を日本式に変えさせ、文化まで破壊した。
敗戦まで、日本人はどれだけの朝鮮人と中国人を強制連行して、炭鉱などで過酷な労働をさせたのか。その数、百万とも二百万ともいわれているが、今、日本で生活している韓国系の人のほとんどは、この人たちの子孫である。
こんな過去があるかぎり、北朝鮮を巡る六カ国協議で、日本が訴える拉致問題に対し、中国や韓国が積極的に支援してくれないのは、当然といえば当然である。
教科書で教えろ
以上の事実にくわえて、戦時中の、あの異様な軍人の威張りかた。そして朝鮮や中国への蔑視教育を思い出したら、日本が侵略戦争をおこない、植民地やそこに住む人々に過酷な仕打ちをしたことは、疑いようのない明白な事実である。
この傾向は戦後も続いたが、幸か不幸か、田母神氏はそれを知らない。なぜなら戦争が終った時、彼はまだ生まれていないからである。
ならば、これらの事実をしっかり学ぶべきではなかったか。
しかし、彼が小学校から中学校にすすんだ頃、日本の歴史の教科書では、それらのことをまったくといっていいほど教えていなかった。教科書は明治維新までで、そのあと日韓併合や日支事変の実態についてはほとんど記されていない。
これでは、侵略戦争はなかった、と思い込むのも無理はない。
そして、彼の言動を批判しているマスコミも、かつての日本については、あまりよく分かっていない。
実際、今回の事件について新聞の社説などでは、「言論の自由をはき違えている」「歴史観を述べるのは空幕長の仕事ではない」「文民統制に問題がある」といった、現実離れした記述ばかりで、侵略は事実か否かについては触れていない。
要するに、今、マスコミの第一線にいる記者たちも過去、日本が犯した罪については何も分かっていない。
こんなピンボケ状態を正すにはどうするか。
もっとも重要なことは、歴史教科書にきっかり、かつて日本は侵略国家で、アジアの国の人々を苦しめたという事実を、明確に記すことである。
自分たちの国の犯した罪を子供にしっかり教える。それを知らされることは辛いことだが、そうすることでしか、アジア諸国との真の理解は生まれないだろう。
日本軍が朝鮮人労働者を強制連行しただとか、日本にいる在日韓国人は強制連行された人の子孫だとか、事実誤認も甚だしいが、エロ小説専門の作家センセイは所詮この程度のレベルだと諦めて、そこらへんは笑って許すしかないのかも知れない。
ただ、老人が若い人に向かって「若輩者は黙ってろ」といきり立って怒っているようなコラムは看過できない。戦争を知らないヤツの侵略戦争否定は間違いで、戦争を体験した自分の意見は正しい。そんなことあるか。
バカ保守はよく、田嶋陽子などに「子供を育てた経験のない女が子供の教育について語るな」と言っているのと同じである。
しかも、渡辺は自分の視野狭窄とも言える身の回りの実体験をもって日本が非道な侵略戦争をしたと主張している。これも片腹痛い。
渡辺がコラムで挙げた理由は以下の3点。
(1) 子供の頃、朝鮮人労働者が酷い環境で働いていた。
(2) 当時の子供らが朝鮮人や中国人を差別しており、学校でも蔑視教育が行われていた。
(3) 戦時中、軍人が異様に威張っていた。
うーん、すごい。このリッパな認識を持ってして、日本が他国を侵し、その国の人々を酷い目に遭わせた侵略戦争を行ったと言えるとは、これまでになかった新しい認識であるとも言える。
戦争を体験した自分が言うのだから間違いないと主張する"無謬の"渡辺は、最後にアジア諸国に理解して貰うため、歴史教科書に日本が戦争中にひどいことをしたともっと書けと最後に主張して結んだ。
これ以上、今の歴史教科書に何を書けというのだろう。中国人を南京で30万人虐殺したことになっているし、従軍慰安婦は日本軍によって強制連行されたように書かれている。朝鮮半島では朝鮮人の名前から文化から全てを奪い、あらゆる金銭、資源を搾取したことになっている。
これにあと追加するといったら何だ。想像力に乏しい私には何も思い付かない。
たかがエロ小説の作家が、戦争を体験したくらいで戦争を知らない世代にもっと勉強しろと説教を垂れる。
ろくでもないジジイがいたもんだ。
by ..... tomtom
死刑廃止要求など余計なお世話