ニュース
news002.jpg

ハギーが解説 目からウロコの情報セキュリティ事情:データは消えない――メモリカードやUSBメモリに潜む落とし穴 (2/2)


前のページへ 1|2       

USBメモリの落とし穴

 それではUSBメモリはどうでしょうか。一部のセキュリティを考慮した製品を除いて、今の情報漏えい問題で最も危険な記録メディアに挙げられているのがUSBメモリです。仮に盗まれた場合、保存された形跡のあるデータはHDDと同じように簡単に復元でき、利用者が「消去したはず」と思った会社の機密情報が第三者に知られることとなります。

 こうした事実に気付かずに、USBメモリで気軽にデータの受け渡しをしている企業が多数見受けられますが、極めて危険な行為です。利用者は「消去操作をしてから使っているから大丈夫だ」と思っていても、実際にはデータ本体が消えてはいないのです。「簡単に復元できる」という事実を知らないまま、他人にデータを見せていることは深刻です。事実を知れば、ぞっとする人が多いのではないでしょうか。

 さらに、会社の規則で「完全削除を行うこと」と定義しているところはどの程度あるのでしょうか。統計データはありませんが、私の経験上そのような会社は極めて少ないのが実情です。仮にルールを決めていても、それらが実行されているかをチェックしなければ、ルールが意味を持ちません。

 実際に「完全削除」を行うためには、物理記憶部分(ファイルの本体部分が格納されている場所)を意識的に上書き(ランダム値でもnull値でも大丈夫です)しなければなりせん。しかし、そこにはUSBメモリの大容量化という新たな問題が起きているのです。

 例えば、この前知人が持っていたUSBメモリの容量は、なんと64Gバイトもありました。数年前までは64Mバイト容量のUSBメモリが一般的だったのというのに、すでに約1000倍もの容量になっているのです。

 データ本体を完全消去するためには、別のデータを書き込みしなければなりませんが、64Gバイトという容量のすべてを書き込みする作業は実に大変なことです。知人が持っていた製品の仕様を見ると、「書き込み速度:3Mバイト/秒(最大)」と記載されていました。これは理論値ですが、64Gバイトの実質的な格納領域を仮に60Gバイトと見積もって、計算上すべての物理記憶部分へ書き込みをするには約5時間半もかかってしまいます。しかも、これは仕様書上の数字なので、実際にはそれよりも2倍以上もの時間がかかるでしょう。

 物理記憶部分に何かを書き込むだけで10時間以上もかかるとは、あまりも不便です。データ本体の完全削除を徹底するためには、一般的に3回以上書き込み操作をすることが望ましい(編注:HDDは最低3回、メモリカードやUSBメモリは最低1回の書き込みが望ましいとされています)とされていますが、64Gバイト容量なら30時間以上もかかってしまいます。

 書き込み速度の遅い安価で大容量のUSBメモリでデータを完全消去するには、悲惨な状況だといえるでしょう。仮に企業のルールで「USBメモリ全体を3回上書きしてデータを完全に消去すること」と既定していても、現実に即していないのです。

 書き込み速度が高速なUSBメモリには、メーカーがうたう書き込み速度が約32Mバイト/秒のものや37Mバイト/秒のものがあります。安価な製品との価格差は4倍以上にもなります。仮にこの数値で3回の上書き作業をしたとしても、64Gバイト容量では3時間程度かかることが想定されます。いくら作業時間が短縮されるとはいえ、書き込み作業のために1日の業務時間が3時間も削られるのは好ましくありません。

 このように会社の規則でデータの消去方法を規定していても、それに見合う書き込み速度が得られなければ「絵に描いた餅」になってしまうのです。記録メディアの大容量化と高速化では、セキュリティも考慮してもう少しバランスの取れるようにしていただきたいと思います。読者の周辺ではデータの消去についてどのような方法を実施されていますか。ぜひご意見を伺いたいと思っています。

萩原栄幸

ネットエージェント取締役。コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、NPOデジタル・フォレンジック研究会理事、日本セキュリティ・マネジメント学会理事、ネット情報セキュリティ研究会技術調査部長、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格した実績も持つ。

情報セキュリティに関する講演や執筆を精力的にこなし、情報セキュリティに悩む個人や企業からの相談を受ける「情報セキュリティ110番」を運営。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。


前のページへ 1|2       

Copyright© 2008 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.



Feed Back
この記事についてのご感想【必須】


コメント


PR

ソリューションFLASH

キャリアアップ



エンタープライズ・ピックアップ

news117.gif オルタナブログ通信:ビジネスユースの新SNS「CU」――人脈を広げ、管理するコミュニティーは成功するのか?
ITにまつわる時事ネタなどを、175組を超えるオルタナティブ・ブロガーが日々発信している、ITmediaのビジネス・ブログメディア「オルタナティブ・ブログ」。今週はその中から、CU、Twitter、クラウド、Google、大統領選などを紹介しよう。

news010.gif デジタルサイネージ最前線:遅延によるイライラを解消 副都心線で稼働する運行情報ディスプレイ
副都心線の東新宿駅などの改札前で遅延情報を配信する「運行情報ディスプレイ」が稼働している。改札を通って電車に乗ろうとしたら事故が発生して足止め、約束の商談に間に合わない――こんな事態を未然に防げるデジタルサイネージだ。

news011.jpg 悲しき女子ヘルプデスク物語:静電気の季節到来!――帯電体質はツラいよね
乾燥しがちな冬の空気。しかもオフィスでは空調によってさらに湿度が下がりがち。そうなると恐いのは――そう静電気です。PCでばちっ。プリンタでばちっ。もちろん、ドアノブでも。ああ、春よ来い。

news017.jpg Weekly Memo:Yahoo!に振り向かなかったMicrosoftの“秘密兵器”
Googleとの提携が破談したYahoo!に、Microsoftは再び振り向かなかった。そこには、検索エンジンで手応えをつかみつつあるMicrosoftの“秘密兵器”の影がちらついている。

news002.jpg 有馬あきこのはじめましてインターネット:mixiの「つながり」を社会に生かしたい――ナナロク世代の同志、笠原さんに会った
10月末に業績予想を上方修正するなど、飛ぶ鳥を落とす勢いのmixi笠原さん。お会いしてみると、ユーザーのこと、社会のことを篤実に考える青年社長なのでした――。

news009.jpg 「太陽電池は油田だ」――シャープ・町田会長
「堺コンビナートの挑戦」という町田会長の言葉に表わされるように、シャープが建設中の堺新工場には地球環境に配慮した最新技術が惜しげもなく盛り込まれている。特に工場の屋根などに張り巡らされた太陽光発電システムは地球を救う可能性を秘めるという。

news001.jpg ネットの逆流(1):Googleマイマップで意図せぬ情報公開多発、「うっかり」で済めばいいが
時の流れとともにネットが進化している。だが完璧ではない。ときに逆流し、氾濫する。人々が思ってもみなかった方向にその流れが変わるかもしれないのである。

news023.jpg さらなる進化を遂げたOpenOffice.org 3.0
リリースされたばかりのOpenOffice.org 3.0は、インタフェース部分には改良の余地もあるが、ほとんどのユーザーは、オフィス生産性スイートとしての使いやすさがにわかに向上した部分が幾つもあることに気づくだろう。

news006.jpg Teradata PARTNERS 2008 Report:三井住友銀行の新CRMシステム、住宅地図活用で訪問回数が倍増
ネバダ州ラスベガスで開催中の「Teradata PARTNERS 2008」は2日目を迎え、三井住友銀行が住宅地図を活用した新しい営業支援システムの事例を紹介した。担当エリアを「面」で理解できるようにするのが狙いだ。