[元次官宅襲撃]事件当時の現場は？…共通点多く

　元厚生事務次官宅連続襲撃事件で殺害された山口剛彦さん（６６）、美知子さん（６１）夫婦のさいたま市の自宅と、吉原健二さん（７６）の妻で重傷を負った靖子さん（７２）の東京都中野区の自宅はいずれも住宅街の一角にある。犯行はいずれも▽夕食時間帯▽宅配便業者を装って押し入る▽血の付いた足跡を残す――など共通点が多い。事件当時、現場はどんな状況だったのか、記者が歩いた。

　◇人通りなく薄暗い

　２１日午後６時半過ぎ、さいたま市南区別所２の山口さん方の前に立った。隣に住む男性会社員（３０）が山口さんのものとみられる叫び声を聞いたとされる時間帯。玄関に面した道路は東西に延びている。東側は数軒の民家、西側にはマンションとアパートが建っているが、人通りはなく薄暗い。

　庭には立ち木が茂り、県警の調べでは犯人は室内を歩き回ったとみられるが、道路側から窓はよく見えず、中をうかがうのは難しそうだ。だが周囲はひどく静か。叫び声が上がれば響き渡るだろう。声を聞いた人がほとんどいないのが不思議なくらいだ。

　現場検証で、血の付いた足跡が西側の路上で計約６０メートルにわたり見つかった。その足跡をたどる。３５メートルほど下り坂を駆けて丁字路を左へ。勢いがつき、道路真ん中まで飛び出してしまう。あわてて左側に寄る。２５メートル進んだあたりで足跡は途絶える。さらに１０メートル進むと通行量の多い道との丁字路がある。この間わずか３０秒ほど。通行人、車ともすれ違わなかった。

　この交差点を左に行けばＪＲ武蔵浦和駅、右なら中浦和駅に着く。また徒歩数分の範囲には、勝手に車が止められそうな駐車場や路地がたくさんある。逃走手段はいくらでもありそうだ。

　事件当日の１７日午後７時５０分ごろ、この道を逆に歩いて帰宅した女子高生（１６）は「人通りはいつも少ない。特に山口さん方側から曲がってくる人とすれ違うのは月１回あるかないか。あの日そんな人はいなかった」。

　山口さん方に戻った。庭先では夫婦の世話を失ったツバキの花が寂しげにしおれていた。【岸本悠、堀智行】

　◇かなりの人通り

　中野区上鷺宮２、２１日午後６時半。日没から既に２時間が過ぎ、夕食のにおいが漂う。靖子さんが襲われた同じ時間帯だ。

　幹線道路から約７００メートルほど入った閑静な住宅街。柴犬（しばいぬ）を散歩させる男性や自転車の後ろに子供を乗せた主婦が行き交う。

　血痕のついた足跡は靖子さんが倒れていた自宅東隣から十字路を折れ、南東約１００メートル地点まで続いていた。発生直後、足跡が途切れた付近でワゴン車とみられる車が急発進する音を住民が聞いており、犯人の逃走ルートとみられる道路だ。

　犯人の背丈に近い身長１６６センチの記者がゆっくり歩くと約１２０歩で６２秒。小走りして徐々に速度を速めると３２秒だった。

　この約１００メートルの間には白色街灯４本が約２０メートルおきに並ぶ。アパートの街灯も２本。幅約５メートルの道路沿いに建つアパート３棟の部屋数は計５１室あるが、うち２３室に明かりがともっていた。カーテンを引いていても周囲に明かりが漏れ、視界は悪くない。

　散歩の男性（５８）は「街灯の下なら、遠くからでも知り合いの顔は区別できる」。「家が密集していなくて明るく感じるから、ウオーキングコースに選んでいる」と話す女性もいた。

　また南から北への一方通行のため、南に向けて逃走した犯人は正面から車のヘッドライトを浴びるはず。午後６時から３０分間の通行者を数えると車や自転車は６９台、徒歩で１７人が通った。人通りはかなりある。

　目撃される可能性は十分あった。それでも犯人は襲撃をやめなかった。その行動に、底知れぬ恐ろしさをみたような気がした。【町田徳丈】