更新:11月21日 11:10インターネット:最新ニュース
「次は買い物を楽しくするサービス」 520万ユーザー抱えるクックパッド
料理レシピ共有サイトのクックパッド(東京・港区)が順調にユーザー数を伸ばしている。月間ユーザー数は10月で約500万人を突破、アクセス数も2億6000万件に達している。社員も増えたため今年4月にオフィスを移転、さらなる事業拡大を目指している佐野陽光代表執行役に話を聞いた。 ――4月末に大きなキッチンのある新しいオフィスに移転しました。 人員が増えてきたのに対応したこともありますが、ネット企業としては人が最大の資産であって、それに対して投資していくために環境の良いオフィスに移転しました。場所については当初、仙台から九州、米西海岸、上海まで幅広く検討しました。前は東京・青山で生活感があまりなかったのですが、事業の内容や営業の人員の動きやすさを考えるとやはり生活圏に近い東京近郊ということで結局、白金に落ち着きました。 キッチンは社員が自由に使えますし、打ち合わせをしたりもします。「まかない制度」というのがあって、食材費は会社持ちで社員が好きなものを調理して食べることができます。お昼ご飯や夜食を作ることがありますね。最近は、ワイドショーの撮影場所としても提供することがあります。
――7月にサイトをリニューアルしました。
2年ごとにリニューアルしています。今回は、表側というよりもインフラを含めた内側のほうを全面的に変更しました。インフラはシンプルな構成にし、システムは「Ruby On Rails」というフレームワーク技術を使って構築しています。現状520万ユーザーがいますが、さらに拡大しても耐えられるような設計になっています。 デザイン面はそれほど大きく変更してないように見えますが、ユーザーの動線を分析して使いやすいように見直したり、「AJAX」という技術を使ったりしています。ユーザー数は順調に増えていますが、無駄な動線をなくしたのでアクセス数についてはそれほど増えていません。 ――例えば「大根」などと食材の名前でウェブ検索すると、クックパッドのレシピが上位に表示されます。SEO対策を徹底しているのでしょうか。 検索エンジンからの流入はそれなりにありますが、SEO対策という考え方はあまり好きではありません。ユーザーによい情報を提供しようというのが基本で、検索エンジンがきちんとコンテンツをクロールしてランキングしてくれればいいと思います。SEOにはあまりエネルギーを割こうとは思っていません。 ――520万ユーザーのうち半数が30代の女性ということですが。 クックパッドには30代女性のユーザーが250万人います。30代女性の人口は933万人なので、4人に1人はクックパッドを使っていることになります。昔は正月になったらおせち料理を家族で一緒に作ったりと料理を伝承する機会がありました。今の30代以下の人は、そういった機会がなくってしまったのでよい食材があったとしても、イメージがわかない。イメージがわくためにはメニューが必要です。メニューの伝承の場としてクックパッドが機能しているのだと思います。 ――サイトの利用は基本的に無料です。現状のビジネスはどのように展開しているのでしょうか。 収益の柱は3つあって、今一番大きいのは食品メーカーのマーケティング支援です。食品メーカーは若い世代の人に物が売れなくなっていることで悩んでいます。そこでクックパッドのサイトを宣伝や調査に使ってもらったり、データベースのデータを提供したりしています。顧客からはコンサルタントフィーとして月額で料金をいただいたり、企画ごとにフィーをいただいたりしています。 例えば、焼き肉のタレのマーケティング支援をしました。焼き肉自体が家庭ですることが少なくなっていて、タレの販売は伸び悩んでいます。そこで、クックパッドのサイト上で焼き肉のタレを使ったレシピの募集をしました。ビビンバ丼とかサラダにかけるとか、おにぎりとかユーザーから様々なアイデアが集まりました。おにぎりなんてあまり思い付かないような新たな利用シーンが創出されて、商品の需要拡大にも結びつけることができます。 また、クックパッドのレシピを商品パッケージや新聞広告などに載せることもあります。食品メーカー以外にも、飲料メーカー、白物家電メーカーの支援もできます。 2つ目の柱はネット広告です。月間520万ユーザー、2億6000万回のアクセスがあり、女性系のサイトとしてはナンバー1の媒体力があると思います。生活にも密着していて、晩ご飯の準備をする午後4時がもっとも見られています。 価格は明瞭会計で、ユーザー1人に広告を表示するのを1円としています。例えば80万円のバナー広告であれば、1人4回のアクセスがあると設定していて、ユーザー80万人に4回づつ計320万回表示されるようになっています。 クロスメディア広告として使われることも多くあります。例えば、お酢の販促のためにテレビCMでお酢を使った料理を紹介します。15秒〜30秒程度のCMではレシピの詳細を説明することはできません。そこでCMを流す時期に合わせて、クックパッドのトップページからレシピを見られるようにするといった展開の仕方があります。それから3つ目が、サイト会員向けの有料サービスやレシピの出版事業です。 ――昨年10周年を迎えましたが、ここまでの苦労は。 学生時代に地方で採れた野菜をインターネットで売るというビジネスをやっていて、それがきっかけで食の楽しさを知りました。農家では、例えば毎日のように小松菜が採れてしまうので、それを色々な風に調理する方法を知っています。こういうノウハウを流通させられればという思いから、クックパッドが生まれました。 会社自体は1997年に知人と2人で立ち上げましたが、会社という箱を共有するための目的であって基本的には1人で全部やっていました。クックパッドという名称でサービスを始めたのは98年からで、それから7年ぐらいはほとんどお金にならず、運営からシステム開発までほぼ1人でやる時代が続きました。
お金がなくてサーバーは買えないし、電気も十分使えない。電気代は本当に馬鹿にならないので、最近よく言われているグリーンITもけっこう重要だと思います。その当時は基本的にあまりユーザーを増やさないようにして、既存ユーザーをメーンにしたサービスにしていました。 ようやくビジネスになるようになったのはここ2―3年の話です。1つはユーザーが月間100万人を超えてきて、広告媒体として評価されるようになりました。2つ目はこれまでネットの利用に慎重だった食品メーカーが積極的に取り組むようになってきました。 それから優秀な人材に加わってもらったことが大きいですね。広告事業部長の森下満成と編集長の小竹貴子のおかげでマーケティング支援事業が立ち上がりました。2人が参加した当時はまだ本当に小さい会社で2人とも知人の紹介でしたが、よく来てくれたと思います。 ――社員が増えていますが、組織運営をどう工夫していますか。 組織のモデルにしているのはインターネットそのものです。自律分散型で、マネジメントが情報をきちんと共有しつつ運営できればいいと思います。人材採用も幹部6人の意見が全員一致した時しか決まりません。CEOの私の意見も6分の1票でしかないのです。
重要なプロジェクトの際には、「EOGS(Emotion Oriented Goal Setting)」という考え方に基づくA4判1枚の紙にまとめたものを作るようにしています。それは何かというと、例えばユーザーやクライアントなどの利害関係者が4人いたとしたら、その4人の気持ちを理解して、図にします。それによって、目的や目標をうまく共有できるようになります。 これからは企業文化を創っていかないといけません。今従業員が40人を超えて、50人ぐらいまではこのままいけるでしょう。企業文化ができれば、200人ぐらいになっても大丈夫だと思います。自律分散で協調しつつ仕事をして、また複数人で仕事をするときは、1+1以上のことができるかけ算を目指すような意識が必要だと思っています。 ――新しいサービスを準備しているということですが、どんなものでしょうか。 まだ詳しいことは言えませんが、買い物を楽しくするようなサービスを提供したいと考えています。スーパーの風景を想像してほしいのですが、スキップしているように楽しく買い物をしている人は誰もいません。値段しか動機付けがないような状況ですが、それを楽しい場にしたいと考えています。 ――上場の予定は。 今は資金面では特に必要ありませんが、必ずパブリックな会社にはしたいと思っています。100年ぐらいかけてやりたいことを実現していきたい。でも10年やってもその1%ぐらいなので、このペースだと1000年はかかってしまいますね。 [2008年11月21日/IT PLUS] ● 関連リンク● 記事一覧
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