昨年10月に民営化した日本郵政グループをめぐり、麻生太郎首相がゆうちょ銀行などの株式売却の凍結や制度の見直しが必要と発言した。民主党、社民党、国民新党が提出し、参院ですでに可決されている株式売却凍結法案の、衆院での行方が焦点になっている。
郵政民営化は小泉純一郎元首相が「構造改革の本丸」と言い切り、国会解散に打って出てまで実現させた事業だ。
福田康夫前政権や麻生政権の下で、郵政民営化に反対した議員の復権が進んでいることは事実だ。ただ、民営化見直しとなれば重大な政策転換にもなる。政府・与党が郵政事業の在り方や日本郵政グループをどうするのかも含めた全体像を提示し、国民に信を問うべきテーマだ。なし崩しに進めることは許されない。
麻生首相の真意は「株価が高いときに売ればいい」だというが、それならば法律を変える必要などない。これまでも、日本電信電話公社や日本専売公社、国鉄の民営化に際して、株式の売り出しは相場状況をみながら行われた。
日本郵政が想定しているゆうちょ銀行とかんぽ生命の上場、株式売り出しは、10年度中で、1年以上先のことだ。それを縛るような発言は誤解を生むだけだ。
民営化された郵政事業に関して、いま検討すべきことははっきりしている。この1年を踏まえつつ、体質的に収益力の弱い郵便局会社の経営安定策や現状のままでは将来展望を描きにくい郵便事業会社をどう維持していくのかである。
郵便事業は国際条約で国内一律サービスが義務付けられている。それを支えているのが郵便局ネットワークだ。過疎地域では郵便局が唯一の金融機関といった例も少なくない。ただ、それが今後とも維持される保証はない。民間企業では、収益性、採算性を重視しなければならないからだ。
小泉改革では、日本郵政傘下の各社が広範な業務展開で収益性を高め、サービスの質も向上するというバラ色の未来が描かれた。
だが、話はそう簡単ではない。郵便局会社はゆうちょ銀行や郵便事業会社などの委託手数料に依存している。ゆうちょ銀行は手数料業務の柱に投資信託販売を据えたが、金融商品取引法施行で販売時の説明が煩雑になったことや、春以来の株価急落で低迷している。
保険も飽和状態のなかで、業容の拡大は並大抵ではない。郵便局ネットワークを基礎に、住民生活に密着した金融サービスに特化することが任務だろう。
郵政事業は明治以来、国民の税金で築いてきた。社会インフラでもあるのはそのためだ。民間会社になったからといって、公共性がなくなったわけではない。
民営化・郵政に求められているのは、効率的社会サービスの供給だ。この視点からの見直しなら歓迎だ。
毎日新聞 2008年11月22日 東京朝刊