麻生首相の失言と迷走が止まらない。もはや「おっちょこちょい」では片付けられないほど深刻だ。
医師不足に絡んで「(医師は)社会的常識がかなり欠落している人が多い」と発言。一夜で撤回し、日本医師会長に頭を下げた。
道路特定財源の地方配分などをめぐる発言でも、自民党内から猛反発され、軌道修正を余儀なくされた。「『交付金』を『交付税』と読み間違えたのだろう」と皮肉られる始末。
だが、この一連の失態は「頻繁」を「はんざつ」、「踏襲」を「ふしゅう」と読んだ愛嬌(あいきょう)のたぐいとは全く違う。自身の認識の披歴であり、政策の中身にかかわる言及だからだ。
首相は当初「全世帯に」と明言しながら、バラマキ批判を浴びるや「豊かな所に出す必要はない」。二転三転した揚げ句、所得制限を自治体に丸投げした。
総額2兆円もかけるというのに、まるで腰が据わっておらず、無責任極まりない。丸投げについても平然と「地方分権ですから」。失言どころか暴言だ。
もともと生活支援か景気浮揚か目的があいまいで、効果もはなはだ怪しい。案の定、世論調査では6割の人が「評価しない」「不要な政策」と答えている。
本紙にも読者の皆さんから意見が寄せられている。もちろん「素直に喜ぶべきだ」との声もあるが、心打たれるのはこんな訴えだ。
「私たち高齢者が求めているのは、2万円ほどのお金より、医療や介護が安心して受けられることです」と66歳の女性。
「年金暮らし」と言う男性は「生活は苦しい。でも2兆円は子どもたちの教育費や医療費に使って。子どもは国の宝だから」。
この国の今と未来を、誰よりも見据えなくてはならないのは、麻生首相、あなたではないですか。
(名古屋本社編集局長・加藤 幹敏)
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