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2008年11月22日

◎国史跡に前田家墓所 県境越えた文化遺産に意義

 金沢市の前田家墓所、高岡市の前田利長墓所が国史跡に一括指定されることは、県境を 越えてこの地域に広がる「加賀藩」という歴史エリアを浮かび上がらせる大きな意義をもつ。金沢市と富山県西部六市は「加賀藩」をテーマに広域観光推進協議会を設置して結びつきを強めているが、そうした両地域の関係にも一本の太い芯が通るような感じがする。これを弾みに加賀藩遺産の文化財的な価値をさらに高め、点を線でつなぎ、面的な広がりを持たせ、「加賀藩文化圏」を肉厚にしていきたい。

 金沢市野田山にある前田家墓所は歴代藩主一族の墳墓が並び、古色蒼然としたたたずま いをみせる。一方、高岡市の利長墓所は藩主個人の墓としては全国屈指の規模を誇り、石造彫刻を思わせる意匠が特徴である。雰囲気が異なり、行政区域も違うため、両者を一体の遺産として受け止めることは少なかったように思われるが、「加賀藩主前田家墓所」という指定名称は、一つになることがごく自然な形であることに気づかせてくれる。

 史跡指定を受け、金沢、高岡市は保存管理計画を策定する。墓所という厳粛な空間だけ に、どこまで活用すべきか議論のあるところだが、この二つの場所はそれぞれの都市の礎を築いた前田家のいわば「聖地」であり、これほど歴史のつながりを実感させてくれるところはないだろう。

 「加賀藩」という視点で両県を見渡せば、前田家ゆかりの文化遺産が数多く点在してい ることが分かる。その広がりを見えにくくしてきたのが行政の壁であり、さらに言えば、前田家の遺産が戦後の偏った歴史観の影響で正当に評価されてこなかったことも見逃せない。

 金沢市では辰巳用水をはじめ、前田家墓所を取り巻く加賀八家墓所、さらには戸室石切 丁場、土清水塩硝蔵などの史跡整備へ向けた取り組みがある。高岡市でも高岡城跡の史跡指定などが課題である。これらの文化財としての価値を高めることで、両県に点在する遺産と合わせ、「加賀藩文化圏」の輪郭や魅力を一層鮮明にしていきたい。

◎新過疎法の制定 優遇税制を拡充したい

 政府主催の全国知事会議に出席した谷本正憲知事が会議後、知事会の要望を代弁する形 で、新過疎法の制定を政府に求めていく考えを示した。過疎対策はなお地方の深刻な課題であり、与党も新規立法に動いているが、今後の議論の焦点の一つは、企業の立地と設備投資を促す税制の優遇措置を拡充することである。

 一九七〇年に最初の過疎法が施行されて以来、現在までに投入された公費は約八十兆円 に上るという。これによって過疎地域の社会基盤整備は大いに進んだ。しかし過疎の進行は止まらず、都市との格差はむしろ拡大しているのが実情であり、税制面で思い切った手を打つ必要があると思われる。

 二〇〇九年度末で十年の期限が切れる現行の過疎法(過疎地域自立促進特別措置法)で も、企業立地促進のための優遇税制が取り入れられている。国税で減価償却に特別償却を認める一方、地方税では自治体条例で法人事業税、不動産取得税、固定資産税を免除できることになっている。

 しかし、その対象は製造業、ソフトウエア業、旅館業の三業種に限定され、しかも特別 償却は新たに建設、導入した施設、設備の合計取得額が二千万円を超える場合に限られている。新過疎法では、現行の優遇措置の対象や要件の拡大、緩和を図ることはむろん、国税法上のさらなる軽減措置を考えてもらいたい。

 私たちはこれまで、地域格差是正のためには、過疎地域における法人税、所得税に「軽 減税制」を創設する必要があると主張してきたが、税負担の軽減策でこれまでにない手を打たないと、過疎克服は難しいのではないか。

 財政支援の在り方も見直す必要がある。これまでの過疎法は道路や橋、学校などの施設 整備支援が中心であった。過疎地は道路などハード面の整備は依然必要だろうが、それだけではなく新たな産業創出や人材育成、医師の確保など安心できる医療環境の整備といったソフト面の支援を求める声も強まっている。こうした切実な要望にこたえていくことも新過疎法づくりの大きな課題である。


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