シジミジル物語(1)シジミジル、できる。

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2008年3月17日、NHK大阪放送局。
この日、三倉茉奈(田島めぐみ)さん、久保山知洋(山田康太)さん、東島悠起(坂下俊)さんの3人がはじめて顔を合わせる。茉奈さん以外の2人は、オーディションによって選ばれた。
俊役の東島さんは、持ち前のギターテクニックとミュージシャン然としたルックスで、すんなり最終選考まで進み、そのまま合格。「演技はしたことがなかったので、オーディションにはギターだけを弾きに行きました。」ギターの腕前は、ほかの候補者の中でも群を抜いていた。
ところが、康太役の久保山さんは第3次オーディションで一度、不合格になる。「でも、その時の自分の演技にどうしても納得がいかなくて、もう一度だけ芝居だけでも見てほしいとお願いして、なんとか最終オーディションに呼んでもらいました。」最終オーディションには参加できたものの、合格はないと思っていた。「数日後、マネージャーから電話がかかってきて山田康太役に選ばれたと聞いた時は、泣きました。電話を握りしめて、泣きましたね。」

ギターにまだまだ不安を抱えていた“めぐみ”、芝居に関してまったくの素人だった“俊”、そして一発逆転でオーディションに合格した“康太”の3人が揃った。
この日から、シジミジルとしてのバンド演奏の練習や芝居のリハーサルがはじまる。ふだんでもお互いを役名で呼び合うようになった(本文でも以下、めぐみ、康太、俊の役名で表記)。だが、そこにはまだ、ぎこちない空気が流れていた。いくらお互いを役名で呼び合っていても、本当のメンバーにはなりきれていなかった。それぞれが、ほかの2人に対して遠慮や緊張感を抱いていて、本音でぶつかり合えていなかった。素直な自分を出せていなかった。

事実、めぐみは当初のシジミジルのことを振り返って、「最初は、この3人で本当に大丈夫なんだろうか。」と不安を感じたこともあったと言う。康太と俊も、「ありのままの自分をメンバーに見せていなかったように思う。」と当時のことを話す。
そんな時、めぐみが2人のメンバーにある提案をする。シジミジルの路上ライブ告知のチラシをみんなで作ろうというものだ。台本に出てくるわけでもなく、芝居に必要なものでもなかったが、康太と俊はめぐみの提案に「いいね、よし、やろう!」と賛成する。
バンド練習やリハーサルの合間に、手作りのチラシを作りはじめる。3人の写真バージョンと、似顔絵を描いたイラストバージョンの2種類だ。3人がそれぞれのアイデアを出し合い、夢中になった。
康太のシジミのイラストは何度描いても石ころにしか見えなかった。それを見て、めぐみと俊が笑う。自分のヘタなイラストに康太自身も笑う。だし汁の中でシジミがパカッと口を開けるように、3人のありのままの素顔が次第に見えてくる。チラシだけでなく、シジミジルが路上ライブの時に立てる看板も、段ボールで手作りした。
3人の気持ちが、ひとつになっていく。NHK大阪放送局の前で、路上ライブもやった。俊以外、路上ライブを経験したことがなかったので、どうしても一度体験しておきたかったのだ。シジミジルが、本当の意味でシジミジルになっていく。友情がたっぷり詰まった、完全無欠のシジミジルだ。
クランクインは、もうすぐそこまで迫っていた。