麻生太郎首相が、定額給付金など追加経済対策の裏付けとなる二〇〇八年度第二次補正予算案の今国会提出を見送り、年明けの通常国会に提出する方針を決めたようだ。首相と自民党の細田博之幹事長、大島理森国対委員長の会談の結果で、首相がアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議から帰国する二十五日に表明するという。
自民党は、ここにきて急に二次補正予算案提出の先送りに転じ、インド洋での給油活動を継続する新テロ対策特別措置法改正案の成立優先を前面に出してきた。民主、社民、国民新各党の幹事長は補正予算案の今国会提出を求め、提出までは新テロ特措法改正案の採決に応じない方針を確認している。
与党側は採決に応じなければ今月三十日までの国会会期延長も辞さないとする。民主党の出方を見極めながら具体的な日程を決める腹づもりだが、与野党の攻防激化により国会が機能しなくなる可能性が強まった。
麻生首相は、九月下旬の就任時には「すぐにも」といわれていた衆院解散・総選挙の見送りを十月末に表明し、「総選挙より景気」と経済対策を優先する考えを示してきた。二次補正予算案には中小企業の資金繰り対策なども含まれている。提出の先送りは景気優先の旗印と矛盾するのではないか。
民主党の小沢一郎代表が先の首相との党首会談で補正予算案の今国会提出を求めた。与党が提出を見送る背景には、定額給付金をめぐる迷走劇などの追及をてこに衆院解散に追い込もうという小沢戦略に対する警戒感があるのだろう。
定額給付金をめぐる迷走ぶりはひどかった。所得制限の有無などについて閣内からも首相と異なる意見が次々に出された。総選挙の先送りに伴う首相の求心力低下がいわれた。
首相には次期衆院選に向けて状況を有利に導きたい思いがあるのだろう。だが、事あるごとに総選挙と絡めて批判を浴び、政権のふがいなさが際立つのでは逆効果ではないか。首相は郵政グループ各社の株式売却の凍結を打ち出したが、衆院選で郵政票をつなぎ留める思惑が早速語られている。中川秀直元幹事長が断固反対を表明するなど、またまた火種になりそうだ。
二十日の東京株式市場は八千円の大台を大きく割り込んだ。政治の混迷が許される時ではない。衆院を解散し民意に基づく政権をつくるべきとの声に応えないなら、姿勢を改め、ぶれることなく強力に政権を引っ張っていかなければならない。首相はどちらの道をとるのか。
経営難によるガソリンスタンドの廃業が相次ぐ中で、今後、全くなくなってしまう恐れのある「スタンド過疎地」が、三十二都道府県の百五十三町村に上ることが全国石油商業組合連合会(全石連)の調査で明らかになった。
都市部や国の支援が手厚い離島部は除き、山間地などのスタンドが三カ所以下の町村である。岡山県内では二村(スタンドは計三カ所)が該当する。調査によると、これらの事業者の四割以上が人口減などによる赤字経営に陥っている上、後継者難などからすぐに廃業したい事業者も一割程度いるそうだ。
一九九六年に石油製品の輸入が自由化されて以降、安売り競争が激化してスタンド数が減少した。資源エネルギー庁によると、九五年三月に全国で六万店余りだったのが、二〇〇八年三月には約四万四千店に減った。さらに原油価格の乱高下が、買い控えや値下げ競争を招いて経営環境を一段と悪化させている。とりわけ山間地は小規模事業者が多く深刻だ。
地域にスタンドがなくなれば、手近に給油ができず、暖房用の灯油の配達にも支障をきたすことになろう。自動車が生活の足であり、高齢者世帯も多い山間地にとっては生活基盤を脅かされかねない。
自衛手段に打って出た地域もある。例えば、各世帯の出資で会社を設立してスタンドを開店した所がある。小さな食料品店も併設して地域の交流拠点ともなっている。危機感が、新たな地域の工夫と結束をもたらしたともいえよう。こうした事例や、近隣自治体にあるスタンドの代
替可能性などを踏まえ、行政と住民、あるいは住民同士で対処方法を協議しておくことが必要だろう。地域の生活基盤を守る取り組みが急がれる。
(2008年11月21日掲載)