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【萬物相】原子力発電30年

 1961年の5・16軍事クーデターをきっかけに成立した国家最高会議が、軍の関係者を長官に任命した後、最初の閣議を招集した。軍人ばかりの会議場に、白い韓服を着た老人が入ってきた。慌てた内閣秘書室長が誰かと訪ねると、老人は「原子力院長」と答えた。原子力の研究開発を担当し、59年に発足した政府機関である原子力院の院長が、閣僚クラスの地位にあったということだ。軍人たちは直ちにこの老人を追い返し、1カ月後に海兵隊の医務官だった呉元善(オ・ウォンソン)大尉を院長に任命した。それだけ原子力について無知な時代だったということだ。

 経済開発に政権の存亡を賭けていた朴正熙(パク・チョンヒ)政権は、しばらくして原子力発電に注目し始めた。原子力発電推進委員会を発足させ、慶尚南道東来郡の古里を発電所の候補地とした。古里の住民は発電所と同時に港湾、道路、水道などが敷かれるということで歓迎した。漁業組合長だけが、放射能の影響で日本への魚の輸出に問題が生じるとして反対した。65年に国際原子力機関(IAEA)の調査団が古里で査察を行った際、「時期尚早」という報告書を提出した。韓国の経済事情に比べると、それほどの電力は必要ないということだった。

 朴正熙大統領は高純度プルトニウムの抽出が可能なカナダ製の原子力発電所を建設し、フランスとは再処理施設建設の契約を締結しようとした。しかしこの核開発に向けた野心は、米国のけん制で挫折した。古里1号機は工事開始から7年後の78年4月29日、58万キロワットの能力を持つ発電所として建設され、稼動を開始してから今年で30年を迎える。現在は古里・蔚珍・月城・霊光に20機の発電施設が稼動しており、発電量は韓国全体の35%に達している。

 フランスは韓国と同様、エネルギー問題を解決するために早い時期から原子力に目を付けていた、原子力発電の先進国だ。欧州で最も低価格の電力を国民に供給しており、原子力発電の開発に背を向けてきたドイツには、電力の輸出まで行っている。世界各国の原子力発電所から送られる使用済核燃料の再処理も行い、多額の収益を挙げている。韓国水力原子力(株)も今年に入って、中国広東省の原子力発電所3号機と4号機の施工・管理・運転を行う1550万ドル(約16億円)の技術提携契約を結んだ。またインドネシアやルーマニアへの進出も推進している。

 中国は900万キロワットの原子力発電所を2020年までに4倍の規模にまで拡張することにしている。米国は2050年までにエネルギーの50%を原子力でまかない、自動車の4台に1台を原子力発電による電力で生産した水素で動かす計画だ。エネルギー資源に乏しい韓国も、当分は原子力に頼らざるを得ない状況にある。原子力は温暖化ガスを排出しないエネルギーだ。安全には格別の配慮が必要だが、根拠のない原子力発電所への拒否反応も控えるべきだろう。

キム・ドンソプ論説委員

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

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