Print this Post Article Lists Back

【教科書】「韓国の歴史教科書は世界史的解釈が欠如」

韓国歴史学の重鎮・崔文衡教授に聞く(上)

 崔文衡(70)漢陽大学史学部名誉教授は先月16日、ひっきりなしにかかってくる激励電話の応対に追われていた。大学在学中に崔教授を指導した84歳の恩師は「崔教授、あなたのやっていることは本当に重要なことだ」と激励した。

 崔教授は先月15日、ソウル歴史博物館で開かれた教科書フォーラムで「到底がまんすることができず、この場に出てきた」という言葉で、沸き起こる感情を吐露した。そして、現行の高校近現代史教科書の問題点を辛辣に批判した。崔教授は「高校の近現代史教科書が民衆民族主義を至上とする特定の理念に偏るあまり、我々が直面していた客観的現実を正しく把握できないでいる」とし、「民族・民衆を語るあまり、我々は今、国益を追求する能力さえも失ってしまった」と語った。

 崔教授は4年前に定年退職した後、ソウル道谷(トゴク)洞に2坪余りの小さな研究室を構え、毎日午前9時から午後6時まで韓国近現代史の研究に没頭している。次は崔文衡教授との一問一答。

―高校の近現代史教科書について民衆・民族理念に偏った教科書だと評価していらっしゃいますね。

 「開港後、朝鮮がどのように亡んでいったのか、国際関係の観点からはほとんど言及されていません。外部の衝撃(impact)がなかったならば、民族・民衆運動が起きたでしょうか。教科書を読みながら、腹が立ってどうしようもありませんでした。民衆・民族・改革だけに偏ったあまり、韓国史を世界史的観点から解釈しようとするする努力が見当たりません。歴史を理念に無理やり合わせたら、それはもはや歴史ではありません」

―具体的にはどのような点が問題なのでしょうか。

 「金星(クムソン)出版社の教科書をご覧になってください。1850年からの60年間に約60ページを割いて説明しています。東学農民運動(1894年、東学という新興宗教を中心に全羅地域ではじまった外部勢力排除を叫んだ農民運動)に関しては何と9ページも費やしているのに、いざ日清戦争と日露戦争に関しては記述がまったくありません。“日本が日露戦争に勝利することにより、大韓帝国政府の改革は中断した”というたった一節が全部です。日清戦争と日露戦争は韓国の国権を侵害した決定的な契機です。戦場も厳密に言えば韓国の領土でした。ところが、教科書は民衆運動に執着するあまり、このような重大な事件から目をそらしています。その結果、侵略戦争を侵略戦争と言えない教科書になってしまいました。明成皇后殺害も“日露戦争の序曲”という国際的な観点から見ることで、本質に接近することができるのです」

―しかし、歴史教育はある程度民族主義的にならざるを得ないのではないでしょうか。

 「民族史学者である李基白先生は他界する2週間前に病院を訪れた後輩の歴史学者らに、遺言ともとれる言葉を残しました。“今日、民族を至上とする傾向が広く流布している。しかし、民族は至上ではない。この点に関しては民衆も同じだ。学問では真理が『至上』だ。真理に背ければ、民族であれ民衆であれ破滅を免れない。”最近の韓国史学界が胸に刻まなければならない言葉だと思います」

崔文衡漢陽大学史学部名誉教授
▲ 崔文衡(チェ・ムンヒョン)教授

 1961年から40年間、漢陽(ハニャン)大学史学部で教鞭をとった。ソウル大学史学部と大学院を卒業し、西江大学で英国経済史で博士学位を取得。1989年に歴史学会会長を務めた崔教授は、学会が開かれる毎に「国史・西洋史・東洋史に分かれている歴史学を統合すべきだ」と主張している。2001年に退職し、いっそう精力的に著述活動を行っている。『韓国を取り巻く帝国主義列強の角逐』『国際関係から見た日本の韓国併合』などを執筆している。2001年に著した『明成皇后(閔妃)殺害の真相を明かす』(邦題『閔妃は誰に殺されたのか―見えざる日露戦争の序曲』)は、大江志乃夫氏をはじめとする日本の代表な左翼学者らの「日本政府不介入」を全面的に反駁するもので、日本でも大きな反響を呼んだ。

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

このページのトップに戻る