ガザ市北郊の地中海沿いに今夏、地元資本の「リゾート施設」がオープンした。ガザ初の歴史博物館を目玉に、「運河」をあしらったレストランを併設。4階建てのホテル部分は建設途中だが、半年以内に開業の予定だ。地元の富裕層と外国人の利用を見込んで3月、建設に着手した。「境界封鎖で状況は厳しいが、長期戦略で必ず観光拠点にさせるよ」。総支配人のムハンマド・ハラビさん(30)が笑顔を見せた。
ガザの「娯楽」は限られる。かつては映画館やベリーダンスを披露する店、アルコール類を出す飲食店もあった。だが、00年に始まった反イスラエル抵抗闘争(第2次インティファーダ)の後、宗教心の高揚もあり、これらの店は焼き打ちに遭うなどして姿を消した。「海水浴か、無駄話かバックギャモン(ボードゲーム)ぐらいしかすることはない。00年以降、何も変わらない」(地元男性)
そんな閉塞(へいそく)下で昨年6月、イスラム原理主義組織ハマスがガザ全域を武力制圧した。「ハマスはガザに『イスラム国家』を樹立する」。そんな見方が広まり、イスラム教の習慣にとらわれない世俗的な女性たちも、頭にスカーフを巻き、身丈の長い服装に変えた。
しかし最近、こうした女性が再びスカーフを外すようになった。アラブ首長国連邦のテレビ局「MBC」ガザ支局の女性特派員、リハム・アブデルカリムさん(32)は「トラブルを恐れた女性側の自粛行動だったが、ハマスが強制しないと分かってきた」と理由を話す。境界封鎖を打破できず、ライバルの穏健派ファタハとの対立も続く現状では、「ハマスにとって『イスラム化』は優先事項ではない」とも見る。
ガザ市の中心部。ハマスの警官が詰める脇を、ジーンズ姿の双子の姉妹が長い髪を躍らせ談笑しながら通り過ぎた。「たとえ不快でも(女性に)口出しするなと指示されている」。警官はそう言って見て見ぬふりをした。かすかな変化の兆しが読み取れた。【ガザ地区で前田英司】
毎日新聞 2008年11月20日 東京夕刊