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第34回 橋本健太 氏 |クックパッド株式会社 最高技術責任者 このエントリーを含むはてなブックマーク
クックパッドセミナー
大学での研究
川井:大学では、どのように研究を進めていたんですか?
橋本:クックパッド株式会社|橋本健太氏1〜2年生の頃はずっとサークルにはまっていて、3年生になって研究会を決めるとなったときに、サークルで仲良くしていた連中がみんな違う研究会に入ったんですね。みんなやることが違くて、こんなに色んなやつらが集まってたんだと思って、それがけっこう嬉しかったですね。僕が行ったのが生命情報学の研究会で、生物学をコンピュータを使ってやろうっていうところです。最初は塩基配列とか、ヒトゲノムプロジェクトというのが一時期ありましたけど、文字列配列としてDNAの情報を読み取ろうっていうものですね。やっているとどんどん、色んな生物の配列がわかってくるわけですよ。
川井:なるほど。
橋本:そんな中で、「配列はランダムで並んでいるわけじゃなくて、どうやら配列のゆらぎがある」みたいなことが分かってきて、「それがなんなのかを今度はプログラミングで解析しちゃえ」ということが出てきました。「そんなことができるんだ!」というのを知って、またすごいはまりましたね。
川井:なるほど。それは病理学とかに使われるための技術なんですか?
橋本:応用的なものではなく、どちらかというともっと基礎的な、学術的なものですね。
川井:そうなんですか。
橋本:実は高校生の頃は生物学のほうが好きで、SFC以外は全部生物系の大学を受けたんですよ。そういう経緯もあって、生物学をやりたいと思っているところにちょうどこの情報科学がはまってくる時代になっていて、一年くらいは文字列解析を一生懸命やっていましたね。でもやっていくうちに、少し違うことをやりたくなってきまして(笑)教授に「なにかシミュレーションみたいなことがやりたいんですけど」と言ったら、「ちょうど考えていたんだよ」と教授も言ってくれまして、「細胞シミュレーションのプロジェクトを作ろう」ということになったんです。
川井:そうなんですね。
橋本:「コンピュータ上にプログラムで細胞を完全に再現する」というのをやろうということになって「E-CELLプロジェクト」というプロジェクトを作って始めました。
川井:E-CELLプロジェクトは何年くらいですか?
橋本:1996年とか・・・10何年か前ですね。ちょうどその年、マイコプラズマっていう一つの細菌の塩基配列が全て読まれたという、史上初めて「一つの生命体の塩基配列が全部わかった」ということがあったんです。じゃあそれをコンピュータに乗っけちゃおう、ということで研究を始めたんですが、    まずはシミュレータを作らなきゃ、というところから作っていった感じですね。
川井:そこから作られるんですね。
橋本:はい。
川井:その作業は、プログラミング実務になるわけですか?
橋本:そうですね。研究と言いながら、やっていることは全てプログラミングです。
川井:そうなんですね。大学院の研究室の方なんかと話すと、プログラミングは普通にできるという方が多いですよね。やっぱりそういうところからなんですかね。
橋本:うちはやっぱり生命情報学なので、コンピュータができないと研究にならないというところではありました。
川井:なるほど。そこで作られたシミュレーションは、具体的にはどういった成果につながっていくんですか?
橋本:クックパッド株式会社|橋本健太氏実験ってけっこう時間がかかるじゃないですか。まずたとえば大腸菌なり菌を増やして、何か影響させてまた増やして解析して、というような、何日かかかることをやらないといけないんです。だけどそれをシミュレーションできちゃえば、たとえば同時に100通りの別々の条件で実験ができたりするんです。だめだったら遺伝的アルゴリズムみたいな形で変化させていくうちに、コンピュータだからできる網羅的な解析とかができてくるだろうというわけです。その中で何か発見があったときに、初めて、それを実験で検証すればスピード感も全然変わってくるだろうと言うのが目指していたところですね。
川井:なるほど。そういうことだったんですね。
橋本:そうですね。そのためにもまずはシミュレーションできるようにならなきゃっていう基礎的なところにつながっていきました。
川井:なるほど、そういう風に使うんですね。
橋本:体の中が工場みたいなイメージで、なんでも好きなものが作れる大腸菌を作る、とか、そういうことを夢見ながらやっていました。
川井:なるほど。その後はどういった感じですか?
橋本:クックパッド株式会社|橋本健太氏さっき少し、研究会に天才プログラマみたいな人がいたというお話をしたんですけど、シミュレータ作りのほうは彼が中心になってやっていて、僕はもう少し研究寄りの成果を出すほうに興味が出てきて、細胞モデルを作ることを集中してやるようになったんです。だけど、やっぱり成果がなかなか出ないんですよ。今回出た成果はこのくらいだけど、イメージする夢のような世界はこのままだと何十年か何百年かかるかな、みたいな感じでした。確かな一歩はあるんですけど、あまりにその速度が遅くて、どうしようかなと思っていましたね。
川井:なるほど。
橋本:そんな中で、佐野と話していたら「そうなんだ。ちなみに俺のやっていることはすごい楽しいよ」とか言われたいです(笑)
川井:(笑)
橋本:もともと佐野がクックパッドを立ち上げる時にちょっと手伝ってはいたんですよ。クックパッドは月額500円で、お金を払わないと使えないサイトとして作ろうということで、「どうやって会員を増やすか?」「すごくいいサービスを作らないと会員は増えないから、どうやっていいサービスにしよう?」ということを考えてやっていたんです。だけど会員は増えなくて、だめだね、って言って僕はその時に一度離れたんです(笑)
川井:それは何年くらいですか?
橋本:1997年創業で、1998年の3月にサービスを開始した当初が有料のサービスだったんですね。それで全然会員数も増えなくてすぐ無料化したという流れです。
川井:なるほど。
橋本:無料化すると同時に給料が出なくなるので、僕は辞めたみたいな感じですね。
川井:それは院生の時ですか?
橋本:院生の時です。
川井:大学院に行くということは元々決めてらしたんですか?
橋本:クックパッド株式会社|橋本健太氏さっきお話しした、教授に「シミュレーションがやりたい」と言った時がちょうどその選択の時だったんですよ。その時に教授が「やろう」と言ったので楽しくなって、絶対大学院に行こうと思いました。
川井:なるほど。でも佐野さんのお手伝いもしたりしながらですよね。
橋本:そうですね。そっちも相当楽しそうだったので(笑)
クックパッドにジョイン
川井:もともと、ビジネスに興味はあったんですか?
橋本:ビジネスというよりも、インターネットがなんとなく世の中に広まりだしてる頃で、ものすごくざわざわしてたんですよ。そこにはすごい可能性があるはずで、わけがわからないけど絶対に楽しい可能性が広がっている、というのが見えて、インターネットをやりたいなと思ったんです。研究もやりたいけどそっちもやりたいな、と欲張りに思って、クックパッドを手伝ったかたちです。
川井:根っこはインターネットにあるわけですね。
橋本:そうですね。それから7〜8年くらい経ってもう一回佐野と話をした時に、「研究が10年とか100年とかかかってじれったい」ということを言ったんです(笑)
川井:(笑)
橋本:そしたら佐野に「クックパッドを無料化したけど、もう一回有料サービスを立ち上げようと思う」ということを言われたんです。有料サービスにするということは、またいいサービスを作ったら対価としてお金が支払われて、よくないものだったら払われない。目に見えて「感謝」というか、価値を提供できているかどうかがその日のうちにわかる世界があるよ、ということを言われて、もうそれならやるしかないと思いました(笑)
川井:なるほど(笑)
橋本:博士課程までやってきた実績自体はなくなっても、身につけてきた技術というのはずっと残っているものなので、今まで身につけた技術と、細胞シミュレーションを作ることでしか持てなかった知識を生かすこともできるし、もう一回インターネットのほうに戻ってやってみよう、という決心をしてクックパッドに舞い戻ってきたという感じです。
川井:なるほど。それが何年くらいですか?
橋本:4〜5年前ですね。2004年くらいです。
川井:割と最近なんですね。
橋本:そうですね。しかもジョインしたときはエンジニアとしてではなく、どちらかというとプロジェクトマネージャという形で参加しました。
川井:そうなんですね。クックパッドさんは当時何人くらいでやられてたんですか?
橋本:当時は、3〜4人くらいですね。
川井:じゃあ本当にそこから、という感じですね。
橋本:そうですね(笑)この部屋の半分か、3分の1くらいしかない部屋でやっていました。
川井:もともとのサイトはどういう技術要素で組まれていたんですか?
橋本:もともとは佐野が全部自分で作ったもので、ColdFusionで組んでいました。
川井:ColdFusionですか。今となってはレアな感じですね。メンテナンスできる方が限られていたんじゃないですか?
橋本:クックパッド株式会社|橋本健太氏そうですね。だから入ってきた人にColdFusionを覚えるところからやってもらっていたと思うんですけど、でも大体は佐野が作っていたので問題なかったんじゃないですかね。
川井:いつ頃までColdFusionで走られてたんですか?
橋本:僕が2004年にクックパッドに入って、それまでサービスは外注で作っていたんですけどやはり中で作ろうということになりまして。そこで僕はエンジニアになって、その時に色々な言語の選定をしたんですね。それが2005年なので、Railsのベータ版がもう出ていてRailsを試してみたりとか、外注でやっていただいていたのがPHPだったのでPHPも試してみたりとかもしました。その中で、実はやっぱりColdFusionが一番使いやすかったんですよ。
川井:そうなんですね。
橋本:古い言葉になるかもしれないですけど、RAD開発みたいなことを目的として作られた言語なので、ただ作るだけならものすごく速く作れる言語なんです。じゃあもうこれで作っていっちゃおう、みたいなかたちで2006年の1月にColdFusionでサイトをすべて書き換えということをやりました。
川井:すごいですね。
橋本:そこからやっと「僕のクックパッド」という形になりました(笑)
川井:なるほど。じゃあ元々佐野さんが作られていた同じ言語でリニューアルしたんですね。
橋本:そうですね。今回Railsでのリニューアルが2008年の7月なので、そこまでColdFusionでした。
川井:入ってみていかがでした?サイトの技術的なこと以外の部分、たとえば営業的な側面とか。小さな部屋で3〜4人で始めたところから、どうやってここまでの会社になったんですか?
橋本:入って最初は、僕は有料会員サービスのほうをずっとやっていまして営業はやらなかったんですけれども、やっぱりなかなかユーザは増えなくて苦しい中でやっていました。
櫻井:6年目くらい、ユーザが100万人を超えたくらいからブレイクすると佐野は言ってしましたね。100万人を超えると媒体としての価値も出てきて、営業の力のある社員もジョインして・・というところですね。
川井:なるほど。
橋本:クックパッド株式会社|橋本健太氏その時点ですでに部屋の広さは4倍くらいになってきたんですけれども、その間は僕はどちらかというとリニューアルのほうにかかりきりで、そこしか見ないでやっていたという感じです。
川井:そうなんですね。現場からはどんな観点で作り直してほしいとか、機能を追加してほしいとかの要望が上がっていたんですか?
橋本:要望としては、心理学じゃないですけど「ユーザさんは何を求めているのか」ということをひたすら考えてやっていました。
川井:仮説を作って、という感じですか?
橋本:そうです。仮説を作ってColdFusionでぱぱっと作って、「どうだろう」と見てみるんですね。あとはユーザさんを呼んでユーザーインタビューをやってみたりとかを続けていました。
川井:ユーザビリティとコンテンツの強化を両方とも徹底的にやっていたということですね。
橋本:そうですね。コンテンツの方はどちらかというと「ユーザさんが作ってくれるコンテンツ」なので、コンテンツを作るユーザさんのことを考えて、どういうサービスを作っていこうかという考え方をしていました。
川井:ここをすごく作りこんだとか、思い出深い部分はありますか?
橋本:けっこう、「まっとうなものづくり」を目指してきたなと思っています。一番最初に「ユーザさんて誰だろう?」というところから考えるじゃないですか。それで「レシピを載せるユーザさん」と「レシピを探すユーザさん」がいるというのがわかりまして、クックパッドってどちらかというと「レシピを載せるユーザさん」のためのサービスだったんですよ。
川井:そうなんですね。
橋本:だからいいコンテンツが集まってきて土台ができたと思うんですけど、有料会員サービスは「レシピを探すユーザさん」のことを考えてサービスを作りこんでいこうということになりました。そこからは、「レシピを探すユーザさん」が本当に欲しいものって何?心からの要求って何だろう?ということを考えていきましたね。あとはサービスとしてちゃんと成り立っているか。仮説はいいのに、仮説が実現できていないようなサービスになっていないかどうかというところを考えてやっていきました。
川井:なるほど。
橋本:サービスのアルゴリズムの方は、研究で得てきた経験を生かしたいなと思っていました。例えば「人気検索」っていうのが有料サービスの中にあるんですけど、レシピの人気順って何で決めよう?というところがあるじゃないですか。よく見られているレシピが必ずしもいいレシピではなかったりするんですよ。いいレシピだけど片寄りが出てしまったり、あまり見られていないけど人気が高いレシピというのもあるんですね。
川井:なるほど。
橋本:クックパッド株式会社|橋本健太氏色々見ていくと、15個くらいパラメータがあるというのがわかって、だから15個のパラメータを元にひとつの指標を作ろうということになりました。研究の時はこういうことばっかりやっていて、直結したんです(笑)
川井:なるほど(笑)
橋本:数式を作って、どういう数式ならちゃんと人気を表わしているものになるのか、どれくらいパラメータをいじれる必要があるのか、というのを作りこんで「人気検索」というのを作ってみたりしました(笑)
川井:楽しそうですね。
橋本:すごい楽しかったです(笑)
川井:では内製すると言ってもエンジニアでやるというより要件定義の方が楽しいわけですよね。
橋本:どっちも楽しいですね(笑)
川井:書く方もやっぱり好きなんですか?
橋本:書く方も好きですね。自分で作って、「じゃあよろしく」っていうのも悔しいんですよ。
川井:なるほど(笑)
橋本:なんでこんな楽しい、おいしいところを他の人に任せるんだ?みたいな(笑)
川井:じゃあウォーターフォールの上から下まで一気にやってしまうという感じですね。
橋本:クックパッド株式会社|橋本健太氏一人しかいないような状態ではあったんで、必然的に自分でやるしかないという感じでしたけどね(笑)でも小さい会社のいいところってそこだと思うんですよ。自分で出来る範囲がすごく広いと思うんですね。
川井:そうですね。全てのことを自分で出来て、お客さんの評価もすぐに得られるというのは、やはり研究をやっておられた頃より比べてやりたい事に近かったんですよね。
橋本:そうですね。やっぱりスピード感が全然違いますね。
櫻井:Railsを採用したのも、早いサイクルでPDCAを回しながらサービス開発ができるという点で最も向いているからだと佐野が言っていましたね。
川井:なるほど。



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会社案内 クックパッド株式会社
http://cookpad.com/info
代表取締役 佐野 陽光
所在地 〒108-0071 東京都港区白金台5-12-7 MG白金台ビル5F
事業内容

料理サイト「クックパッド」及び携帯版サービス「モバれぴ」の企画・運営、食の検索データサービス「たべみる」の販売、マーケティング支援事業、広告事業、出版事業



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