川井: | もともと、ビジネスに興味はあったんですか?
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橋本: | ビジネスというよりも、インターネットがなんとなく世の中に広まりだしてる頃で、ものすごくざわざわしてたんですよ。そこにはすごい可能性があるはずで、わけがわからないけど絶対に楽しい可能性が広がっている、というのが見えて、インターネットをやりたいなと思ったんです。研究もやりたいけどそっちもやりたいな、と欲張りに思って、クックパッドを手伝ったかたちです。
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川井: | 根っこはインターネットにあるわけですね。
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橋本: | そうですね。それから7〜8年くらい経ってもう一回佐野と話をした時に、「研究が10年とか100年とかかかってじれったい」ということを言ったんです(笑)
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川井: | (笑)
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橋本: | そしたら佐野に「クックパッドを無料化したけど、もう一回有料サービスを立ち上げようと思う」ということを言われたんです。有料サービスにするということは、またいいサービスを作ったら対価としてお金が支払われて、よくないものだったら払われない。目に見えて「感謝」というか、価値を提供できているかどうかがその日のうちにわかる世界があるよ、ということを言われて、もうそれならやるしかないと思いました(笑)
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川井: | なるほど(笑)
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橋本: | 博士課程までやってきた実績自体はなくなっても、身につけてきた技術というのはずっと残っているものなので、今まで身につけた技術と、細胞シミュレーションを作ることでしか持てなかった知識を生かすこともできるし、もう一回インターネットのほうに戻ってやってみよう、という決心をしてクックパッドに舞い戻ってきたという感じです。
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川井: | なるほど。それが何年くらいですか?
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橋本: | 4〜5年前ですね。2004年くらいです。
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川井: | 割と最近なんですね。
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橋本: | そうですね。しかもジョインしたときはエンジニアとしてではなく、どちらかというとプロジェクトマネージャという形で参加しました。
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川井: | そうなんですね。クックパッドさんは当時何人くらいでやられてたんですか?
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橋本: | 当時は、3〜4人くらいですね。
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川井: | じゃあ本当にそこから、という感じですね。
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橋本: | そうですね(笑)この部屋の半分か、3分の1くらいしかない部屋でやっていました。
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川井: | もともとのサイトはどういう技術要素で組まれていたんですか?
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橋本: | もともとは佐野が全部自分で作ったもので、ColdFusionで組んでいました。
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川井: | ColdFusionですか。今となってはレアな感じですね。メンテナンスできる方が限られていたんじゃないですか?
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橋本: | そうですね。だから入ってきた人にColdFusionを覚えるところからやってもらっていたと思うんですけど、でも大体は佐野が作っていたので問題なかったんじゃないですかね。
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川井: | いつ頃までColdFusionで走られてたんですか?
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橋本: | 僕が2004年にクックパッドに入って、それまでサービスは外注で作っていたんですけどやはり中で作ろうということになりまして。そこで僕はエンジニアになって、その時に色々な言語の選定をしたんですね。それが2005年なので、Railsのベータ版がもう出ていてRailsを試してみたりとか、外注でやっていただいていたのがPHPだったのでPHPも試してみたりとかもしました。その中で、実はやっぱりColdFusionが一番使いやすかったんですよ。
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川井: | そうなんですね。
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橋本: | 古い言葉になるかもしれないですけど、RAD開発みたいなことを目的として作られた言語なので、ただ作るだけならものすごく速く作れる言語なんです。じゃあもうこれで作っていっちゃおう、みたいなかたちで2006年の1月にColdFusionでサイトをすべて書き換えということをやりました。
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川井: | すごいですね。
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橋本: | そこからやっと「僕のクックパッド」という形になりました(笑)
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川井: | なるほど。じゃあ元々佐野さんが作られていた同じ言語でリニューアルしたんですね。
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橋本: | そうですね。今回Railsでのリニューアルが2008年の7月なので、そこまでColdFusionでした。
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川井: | 入ってみていかがでした?サイトの技術的なこと以外の部分、たとえば営業的な側面とか。小さな部屋で3〜4人で始めたところから、どうやってここまでの会社になったんですか?
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橋本: | 入って最初は、僕は有料会員サービスのほうをずっとやっていまして営業はやらなかったんですけれども、やっぱりなかなかユーザは増えなくて苦しい中でやっていました。
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櫻井: | 6年目くらい、ユーザが100万人を超えたくらいからブレイクすると佐野は言ってしましたね。100万人を超えると媒体としての価値も出てきて、営業の力のある社員もジョインして・・というところですね。
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川井: | なるほど。
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橋本: | その時点ですでに部屋の広さは4倍くらいになってきたんですけれども、その間は僕はどちらかというとリニューアルのほうにかかりきりで、そこしか見ないでやっていたという感じです。
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川井: | そうなんですね。現場からはどんな観点で作り直してほしいとか、機能を追加してほしいとかの要望が上がっていたんですか?
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橋本: | 要望としては、心理学じゃないですけど「ユーザさんは何を求めているのか」ということをひたすら考えてやっていました。
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川井: | 仮説を作って、という感じですか?
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橋本: | そうです。仮説を作ってColdFusionでぱぱっと作って、「どうだろう」と見てみるんですね。あとはユーザさんを呼んでユーザーインタビューをやってみたりとかを続けていました。
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川井: | ユーザビリティとコンテンツの強化を両方とも徹底的にやっていたということですね。
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橋本: | そうですね。コンテンツの方はどちらかというと「ユーザさんが作ってくれるコンテンツ」なので、コンテンツを作るユーザさんのことを考えて、どういうサービスを作っていこうかという考え方をしていました。
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川井: | ここをすごく作りこんだとか、思い出深い部分はありますか?
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橋本: | けっこう、「まっとうなものづくり」を目指してきたなと思っています。一番最初に「ユーザさんて誰だろう?」というところから考えるじゃないですか。それで「レシピを載せるユーザさん」と「レシピを探すユーザさん」がいるというのがわかりまして、クックパッドってどちらかというと「レシピを載せるユーザさん」のためのサービスだったんですよ。
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川井: | そうなんですね。
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橋本: | だからいいコンテンツが集まってきて土台ができたと思うんですけど、有料会員サービスは「レシピを探すユーザさん」のことを考えてサービスを作りこんでいこうということになりました。そこからは、「レシピを探すユーザさん」が本当に欲しいものって何?心からの要求って何だろう?ということを考えていきましたね。あとはサービスとしてちゃんと成り立っているか。仮説はいいのに、仮説が実現できていないようなサービスになっていないかどうかというところを考えてやっていきました。
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川井: | なるほど。
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橋本: | サービスのアルゴリズムの方は、研究で得てきた経験を生かしたいなと思っていました。例えば「人気検索」っていうのが有料サービスの中にあるんですけど、レシピの人気順って何で決めよう?というところがあるじゃないですか。よく見られているレシピが必ずしもいいレシピではなかったりするんですよ。いいレシピだけど片寄りが出てしまったり、あまり見られていないけど人気が高いレシピというのもあるんですね。
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川井: | なるほど。
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橋本: | 色々見ていくと、15個くらいパラメータがあるというのがわかって、だから15個のパラメータを元にひとつの指標を作ろうということになりました。研究の時はこういうことばっかりやっていて、直結したんです(笑)
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川井: | なるほど(笑)
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橋本: | 数式を作って、どういう数式ならちゃんと人気を表わしているものになるのか、どれくらいパラメータをいじれる必要があるのか、というのを作りこんで「人気検索」というのを作ってみたりしました(笑)
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川井: | 楽しそうですね。
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橋本: | すごい楽しかったです(笑)
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川井: | では内製すると言ってもエンジニアでやるというより要件定義の方が楽しいわけですよね。
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橋本: | どっちも楽しいですね(笑)
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川井: | 書く方もやっぱり好きなんですか?
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橋本: | 書く方も好きですね。自分で作って、「じゃあよろしく」っていうのも悔しいんですよ。
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川井: | なるほど(笑)
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橋本: | なんでこんな楽しい、おいしいところを他の人に任せるんだ?みたいな(笑)
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川井: | じゃあウォーターフォールの上から下まで一気にやってしまうという感じですね。
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橋本: | 一人しかいないような状態ではあったんで、必然的に自分でやるしかないという感じでしたけどね(笑)でも小さい会社のいいところってそこだと思うんですよ。自分で出来る範囲がすごく広いと思うんですね。
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川井: | そうですね。全てのことを自分で出来て、お客さんの評価もすぐに得られるというのは、やはり研究をやっておられた頃より比べてやりたい事に近かったんですよね。
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橋本: | そうですね。やっぱりスピード感が全然違いますね。
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櫻井: | Railsを採用したのも、早いサイクルでPDCAを回しながらサービス開発ができるという点で最も向いているからだと佐野が言っていましたね。
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川井: | なるほど。
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