近くの病院に産婦人科がなく遠く離れた病院でしか産めない、救急搬送された妊婦が病院に受け入れを断られる――など出産環境の低下が深刻化している。産婦人科勤務医の減少、偏在が原因だ。産婦人科医は勤務が過酷といわれる。当直も多い。病院を辞め、開業医になる医師が増えている。さらに医療過誤で訴えられやすいことも、減少に拍車をかけている。出産を扱わない開業医が増え、残った病院が負担にあえいでいる。
今月13、14日に開かれた日本農村医学会学術総会では、JA厚生連の病院勤務医師から、「近隣の産婦人科で分娩(ぶんべん)取り扱いの中止が相次ぎ、分娩件数が増えた」「ハイリスク症例の外来紹介が増え続けている」「外来の診察が夕方までかかり、手術も重なり綱渡りの状態」など、さまざまな現状が明かされた。
これらは、国の不十分な施策に原因がある。少子化対策が叫ばれていながら、産む環境を整えてこなかった。
日本産科婦人科学会が10月末にまとめた調査では、勤務医の1カ月の在院時間は一般病院で平均292時間、大学病院は341時間に及んでいる。厚生労働省によると、全国の届け出医師数は2006年末現在で約28万人だが、産婦人科医は約1万人。医師全体に占める割合は4%以下だ。産婦人科医は、産科医ではなく出産を扱わない婦人科医が増えている。
産婦人科医師の不足から、政府は医学部の定員削減を定めた11年前の閣議決定を撤回し、医師養成数を過去最大に増やす方針だ。医師を確保するため、産科医療を提供する病院の集約・再編も進める。だが、一人前の医師を育てるには10年はかかるといわれ、増員が必ずしも産婦人科医増になるとは限らない。集約化も、産科を失うことになる病院にとっては、死活問題との指摘がある。
産婦人科医のうち、女性医師は2割以上を占める。女性の進出が進む一方、出産や育児のために辞めていく例もあり、安定的に医療を提供するには女性医師の働きやすい環境整備が必要になっている。働き続けてもらえるよう育児休暇や勤務時間の短縮、保育所の充実などに力を入れている厚生連病院がある。茨城県の土浦協同病院は07年6月に病院保育所を新築した。
女性医師への支援は一病院だけでできるものではない。女性医師に限らず、当直明け勤務の減免、年休の確保など勤務条件の改善、医師の意欲を上げるための医療費の適正化、分娩費用の見直しなどが求められている。
国が社会保障費をあまりに抑制した結果が、医療の崩壊を招いた。地域医療を確保し、将来さらに進む少子・高齢化に備えるため、産婦人科、へき地など医師にとって労働環境の厳しい部分に、財政支援をしていく仕組みづくりが急務だ。