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社説:荒れる子供たち 調査結果を具体策に生かせ

 データの向こうにすさむ学校の風景が透けて見えるような気にもなる。80年代に全国的に広まった「荒れる学校」の状況に似ているとの指摘もある。

 文部科学省が年1回集約する「児童生徒の問題行動」調査で、小・中・高校生の暴力行為が約5万3000件と2割近く増え、過去最高を記録した。いじめの認知件数は約10万1000件で前年より2万4000件減ったものの、文科省は「件数は多く、油断できない状態」と愁眉(しゅうび)を開くにはほど遠い。

 何が起きているのか。

 文科省の教育委員会への聞き取りでは「感情をコントロールできない」「規範意識が低い」「コミュニケーション能力が足りない」という子供が増え、「家庭の教育力の問題」も挙がったという。

 一見もっともなようで、抽象的過ぎてなすすべもない。肝心なのは、生の実態や事例に即して有効な対策を講じていくことだ。この調査は数値(件数)の取り寄せと、種別や対応パターンの整理などにとどまっており、具体的な状況がなかなか見えてこない。

 文科省は「この全国調査の目的は、児童生徒を指導する施策の参考にしてもらうための統計で、個別のケースは出さないことにしている」という。実際のところ、具体事例が出るとなると学校現場や教委が渋るという懸念もあるだろう。しかし、統計数値だけでどれほどの参考になるだろう。

 06年秋以降、学校や教委で、いじめ自殺を伏せたり、原因を明らかにしないなどの隠ぺい問題が相次いで表面化した。背景には不祥事は表ざたにしたくないという体質がある。文科省は「いじめはどの学校にも起こりうる。多いからといって指導を怠っている学校とはならない」という考え方を示し、隠ぺいを戒めた。

 今回、暴力行為増加が注目され、その背景に何があり、緊急にどのような対処が必要なのか方策が求められている。机上論や内輪話にとどめないためには、実例に立ち、経緯や要因、対応の成否や工夫など現場の経験と教訓を広く共有しなければならない。

 事態は旧来の経験則より先に進んでいる。

 例えば、携帯電話やパソコンを使って中傷する「ネットいじめ」は、加害者、被害者の立場が簡単に入れ替わったり重なったりする。外からは気づきにくく、調査では、いじめ認知件数全体の6%足らずだが、前年より2割も多い増え方をしており、かなり潜在している可能性が高い。

 学校のありようは社会を映しているともいわれる。不安や不信、疎外感などが醸し出す暴力を黙過するような風潮。そこに学校教育が全く無縁であるはずはない。今回の調査を「傾向」を見るためにとどめず、きちんと「対策」に結実させなければならない。

毎日新聞 2008年11月21日 東京朝刊

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