生産拠点の中国への一極集中によるリスクヘッジの受け皿として、順調に成長を続けてきたベトナム。その経済の先行きに懸念が見え始めている。
ベトナム政府は先月、インフレによる物価上昇を理由に、最低賃金を来年1月から引き上げると発表。今年1月に続くもので、これにより外資系企業の最低賃金は、地域によって月55ドルから72ドルとなる。
ベトナムの消費者物価指数は、9月に前年同月比約3割の上昇となっており、最低賃金の上昇幅はおおむねこの水準を考慮したものとなっている。だが、一部地域では現行から35%のアップと、物価上昇分を大きく超えたものとなっている。
それでもまだ中国の華南地域などと比べると低いが、このまま上昇を続けると数年で低賃金の優位性は消えてしまう。
懸念は賃金にとどまらない。今年初めには賃上げを求めたストライキが全国で発生。日系企業は最低賃金を上回る賃金を支払っているにもかかわらず、大々的なストに発展。数日、生産活動が停止し、生産に影響がでたケースもあった。
こうしたストの大半は違法ストであるにもかかわらず、政府による取り締まりも厳しくない。これがさらにストを拡大させる結果となっている。ストの件数は昨年1年で541件だったのが、今年は8月までですでに650件にのぼっているという。
こうした懸念を払拭(ふっしょく)し、ベトナムがチャイナプラス1としての地位を確固たるものとするためには、インフレの抑制をはじめとする経済運営面での課題克服が必須条件であろう。
約8500万人の大きな市場の健全な成長を願いたいものである。(H)